クルーズ船は魔法の空間...めくるめく「ロマンスの世界」で私が経験したこと
I Sing on a Cruise Ship
クルーズ船の旅はロマンスの格好の舞台 @KATELINDERMANMUSIC
<船上で日の出や美しい景色を観賞し、移動と共に毎日違う国でデート。生命力と活気に満ちた「歌と恋と美」の世界が、再び帰ってきた>
初めてクルーズ船に乗ったときのことは、今でも鮮明に覚えている。2014年7月、オズの魔法の国に迷い込んだかのようだった。
船が動きだしたとき、私は『レ・ミゼラブル』の「夢やぶれて」を歌っていた。1000人の観客を前に、船酔いせずに歌い上げる。それが私の仕事だった。
以来、15隻ほどのクルーズ船でシンガーやパフォーマーとして働いてきた。タイタニック号のような昔ながらのクラシカルな船もあれば、カラフルなネオンがきらめく小都市のような船もある。初めはゲスト出演で、ツアーの途中に1週間だけ乗船して降りるという具合だった。その後は2年ほどレギュラー出演の契約を結び、船上で数カ月間過ごすときもあった。
クルーズ船の旅では、出港と入港の際にぜひオープンデッキに出てほしい。美しい港への出入りは魅惑的だ。
日の出とともにシドニー湾に入ると、橋とオペラハウスが迫ってくる。ニューヨークに到着するときは自由の女神のそばを通る。間違いなく早起きする価値のある瞬間だ。
濃密な環境で、自然と恋が始まる
船内ではあらゆる人々の間でロマンスが繰り広げられる。長い船旅に出れば、恋も自然に始まるというもの。濃密な環境で一緒に過ごし、デートの場所には事欠かない。おまけに、お互いの船室は歩いて3分もかからない。
私はこれまでに2回、クルーズ船で大恋愛を経験した。16年のアジア航路では、ハロウィーンに乗員専用のバーで、ある男性と知り合った。1カ月もたたないうちに彼は私の船室に越してきて、その旅が終わるまで4カ月間、一緒に暮らした。
船上のデートはとてもエキサイティングだ。毎回「違う国」でデートできるかもしれない。彼と初めて会ったときも、水曜日は中国でランチをして、金曜日は韓国、週が明けて月曜日には日本でデートをしようと冗談を言った。私たちは今も一緒にいる。
パンデミックが始まったとき、私は乗っていた船を降りてシドニーから飛行機で帰国することになった。すぐには戻ってこられないと分かっていた。私は船の後方に立ち、ライトを消した空っぽのクルーズ船が次々に通り過ぎていくのを見送った。いつもなら生命力と活気にあふれている船が、まるで死者の船だった。涙があふれた。20年3月のことだ。