「自分は違う」としてきたメルケル前首相が、遂に「フェミニスト」宣言した意味
FINALLY A FEMINIST
男性優位のドイツ政界で女性政治家は着実に実績を積んでいる(18年11月、ドイツの女性参政権行使100周年の式典) Fabrizio Bensch-REUTERS
<強いリーダーとして経済大国と欧州を率いた16年、「女性」を強調したくないと言い続けた前ドイツ首相の思い>
欧州最大の経済大国の舵を取ってきた16年間、ドイツのアンゲラ・メルケル前首相はさまざまな言葉で評価された。勤勉で慎み深く、信頼できる人物と称賛され、外国メディアは「自由世界のリーダー」と呼んだ。政治の風向きを見極めてから決断を下す、抜け目のないパワープレーヤーとも言われた。
ただし、本人が常に避けてきた呼び名がある。フェミニストだ。
2017年にイベントで登壇したメルケルは、フェミニストと呼ばれることを気まずそうに拒んだ。その後、独ツァイト紙のインタビューで、自分にとってフェミニストとはドイツの著名な活動家アリス・シュヴァルツァーや、参政権を求めて戦った人々のような女性だと語った。
「私は間違った称賛を求めたくない。彼女たちは女性の権利のために人生の全てを懸けて戦った。自分もそうしてきたとは、とても言えない」
「宣言する。私はフェミニストだ」
しかし、任期満了を目前にした21年9月、メルケルは心変わりしたようだ。自分は「男性と女性は平等だ」と信じていると語り、盛り上がる聴衆に向かって言った。「その意味で、今日、ここで宣言する。私はフェミニストだ」
1954年にアンゲラ・ドロテア・カスナーとして生まれたメルケルは、ルター派の牧師である父のもと共産主義の東ドイツで育った。最初は物理学者として、続いて男性優位のドイツ政界と保守的なキリスト教民主同盟(CDU)で、男性社会を生きるすべを早くから学んだ。
ヘルムート・コール元ドイツ首相には「マイガール」と呼ばれた。ドナルド・トランプ前米大統領やロシアのウラジーミル・プーチン大統領が外交の舞台で彼女を侮辱し、軽んじようとしても動じなかった。
フェミニストのヒーローになることを拒んできた背景には、こうした微妙な性差別の経験もあるかもしれない。「私はドイツの女性にとってだけでなく、ドイツの全ての人にとって連邦首相である」と、メルケルはツァイト紙で語っている。
「全ての分野において男女平等であることは、私にとって論理的なことだ。常に主張している必要さえない」
ボクシーシルエットのジャケットに黒いパンツの「制服」は、メディアに自分の服装より行動に注目させる手段になっている。一方で、家父長制社会を生き抜くために自分を脱女性化している、という解釈もある。