「自分は違う」としてきたメルケル前首相が、遂に「フェミニスト」宣言した意味
FINALLY A FEMINIST
女性を支援する政策には消極的?
05年11月に首相に就任した当初は、有給の育児休暇や公立幼稚園・保育園の拡充など、女性に優しい法律や取り組みを支持していた。しかし、任期の後半になると、新しい育児支援など女性の地位向上のための取り組みはほとんど進まなかった。
メルケルが男女平等の推進に消極的に見えた例はいくつかある。ドイツでは15年に、大手企業の監査役の30%以上を女性にすることを義務付ける「女性クオータ制」法案が可決された。メルケルとCDUはクオータ制の義務化に反対しており、最後まで消極的だった。現在、DAX(ドイツ株価指数)40の企業に女性CEOは1人しかいない。
17年には「賃金透明化法」が成立し、労働者は自分と同じような立場で働く人の収入が分かるようになった。ただし、対象は従業員200人以上の企業だけで、従業員から賃金情報の開示を雇用主に要求しなければならない。
ドイツの女性はヨーロッパの中でも特に、賃金格差に苦しんでいる。欧州委員会の19年のデータによるとEU全体の男女の賃金格差は14.1%、ドイツの時間当たり総収入の男女差は19.2%だった。
リーダーシップに占める女性の割合を増やすことについて、メルケルの態度は揺れ動いていたとも言える。しかし、女性の自己決定の重要な分野である中絶の権利に対する思いは変わらなかった。
左派党の連邦議員で、東ドイツのメルケルと同じ地域出身のアンケ・ドムシャイトベルクは言う。「ベルリンの壁崩壊から32年たった今も、私には東ドイツ時代のような(中絶に関する)権利がない。とても残念なことだ」
旧東ドイツでは、妊娠12週まで、女性自身の意思で中絶する権利が法的に認められていた。現在のドイツでは妊娠12週まで中絶が認められているが、カウンセリングを受け、3日間の待機を経て手術が許可される。
医師が中絶手術を宣伝することを禁止する法律もあり、手術方法や料金などの情報をネットで公開することも処罰の対象とされている。
もっとも、メルケルは中絶への賛否を公言せず、中絶に関する法律の改正を公に支持しなかった。彼女とCDUが政権を去って、新しい連立政権が中絶手術の広告を禁止する法律の廃止を表明している。
メルケル自身は、女性首相の意義を強調することはなく、喜ぶのは早いと女性たちに警鐘を鳴らしている。「ツバメが1羽来ただけでは、夏は来ない。私の存在がアリバイになってはいけない」