「ピザを食べる女性」はテレビに映せません。 イランで新ガイドライン
写真はイメージ YakobchukOlena-iStock
<加速する検閲。イラン産コンテンツから、女性がピザやサンドイッチを食べるシーンが消える......>
イランのテレビから、職場で女性のためにお茶を注ぐ男性、女性が赤い色の飲み物を飲むこと、そしてサンドイッチやピザを食べたり、革の手袋をはめた姿がカットされる──。
IranWireによると、政府から放送局や映画製作者に発行された新しいガイドラインにより、このようなシーンが禁止される。イラン・イスラム共和国放送(IRIB)の広報責任者であるアミール・ホセイン・シャムシャディも、赤い色の飲み物を飲んでいる女性を画面に表示してはならないという見解を示したと報じられている。
規制の対象はテレビだけでない。IRIBは、Satraと呼ばれる子会社を通じて、国内のストリーミングプラットフォームのライセンス供与と監督も担当している。この影響と見られる事態はすでに確認されており、イランのストリーミングサービス「Namava」で毎週配信されるトークショーの最新エピソードで、ゲストの女優エルナズ・ハビビの出演は声だけ。番組は始まってから終わるまで、彼女が映し出されることはなかった。
この状況に視聴者が困惑した様子がSNSからわかる。「せめてゲストの名前が字幕で示されればよかったのに」「番組の司会者はこの異常事態を説明しないまま番組が進んだから、誰が話しているのかわからなかった」。
この新しい規則を確実に遵守するため、イラン国内の設定で男性と女性を示すシーンや写真は、放送前にIRIBによってカットされることになる。一部のストリーミングサイトは、当局からの制裁を避けるため自己検閲を実施するという。
内部から批判の声上がるも...
2017年7月のハッサン・ロウハニの2回目の就任の約1週間前に、最高指導者室は、「内閣に関するイスラム革命の最高指導者ハメネイ師の主な懸念」と題する特別速報を発表した。それは、国防大臣、諜報大臣、外務大臣の選出への彼の直接の関与を強調しながら、何よりも、放送に関わる文化・イスラム指導相の人事に対しハメネイ師は敏感になっていたという。
そのため、最高指導者の気まぐれがテレビ画面に大きく影響していると考えるイラン人は多い。今年5月、親イスラム共和国の学生とハメネイ師のミーティングでは、新派の学生でさえ、新型コロナウイルスや2020年1月に発生した革命防衛隊によるウクライナ国際航空752便の撃墜に関するIRIBのニュース放送で検閲があったと公然と批判。放送局に対する国民の信頼を弱める原因だと主張した。
それでも検閲は加速し、9月にはIRIBのドラマに関わった作家と俳優が、IRIBの上層部によって削除されたシーンが多すぎると不満を示した。ドラマのほか、シリアで夫が殺害された女性のインタビューも検閲されたという。削除された一例は、「殉教者(この女性の夫)が行なった『夜の祈り』について尋ねられたが、夫はとても疲れていたので祈りを唱えるのを見たことがない」という部分だったと女性は振り返る。
イラン学生世論調査機関(ISPA)が9月に18歳以上の約1,581人の市民を対象に行った調査では、「その日のニュースをどのようにフォローしますか?」という質問に対し、IRIBを優先的にニュースソースとして挙げたのは42%。41%はインターネットとソーシャルを選択した。ISPA の過去のデータと比較して、2019年3月から15.6%減少。イラン国民のIRIBへの依存が弱まりつつあることが示唆されている。