東京五輪、女子体操の代表選手が感じた女性とスポーツと五輪の意義
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東京五輪に出場したフランシスが一番に抱いた思いは、そこにいられることへの感謝だった NAOMI BAKER/GETTY IMAGES
<女子体操ジャマイカ代表ダヌシア・フランシス選手が語る衣装とメンタルヘルスの問題、そして選手同士の励まし合い>
たいていの人が体操の競技を目にするのは4年に1度。それも世界最高クラスの選手の超人的な演技だ。そのレベルになると軽々とやっているように見えるかもしれないが、そこに至るまでには、強靭な精神と肉体が必要だ。
私は体操のジャマイカ代表選手として、東京五輪に出場した。東京では、いろいろな国の選手と励まし合いながら練習ができた。アメリカ代表のシモーネ・バイルズもその1人。彼女の練習を間近で見るのは初めてで、私は驚嘆して、あんぐり開いた口がふさがらなかった。とにかくすごかった。
ところが団体総合決勝の跳馬で、バイルズは平衡感覚を失ってしまった。生来の空間認識能力と、鍛え上げられた肉体のおかげで、幸いけがはせずに済んだ。でも、同じことがまた起こって、チームに迷惑をかけたらという心配もあっただろうし、けがの危険もある。彼女は結局、別の選手に交代した。
バイルズはその後、大会前から「ツイスティーズ」に陥っていたことを明かしている。空中でひねりや急回転をしていると、頭の認識と体の感覚がズレてしまう現象だ。そうなると、天井と床の位置が分からなくなる。私も経験があるが、とても怖い。ひどいと演技が終わった後も続き、治るまでに数週間かかる。
最終的にバイルズは、個人種目別で平均台に出場して銅メダルを獲得した。でも、多くのメダルの可能性を犠牲にして、自分のメンタルヘルスと安全を優先したことは勇気ある決断だし、体操界にとって重要な意味があったと思う。これを機に、競技団体もメンタルヘルスの問題をもっと深刻に考えてくれるようになってくれればと思う。
破られた暗黙のルール
今年4月のヨーロッパ体操競技選手権で、ドイツの女子代表チームはレオタードではなく全身を覆うボディースーツを着て出場した。東京五輪でもそうしていた。
私が最初に思ったことは「かっこいい!」。でもすぐに、この衣装のせいで減点されないのかなと心配になった。ところがルールブックを見ると、全身を覆うボディースーツの着用もちゃんと認められていた。「ワオ! どうして私は知らなかったんだろう?」と思った。
体操の場合、男子選手はロングパンツとショートパンツのどちらでもいいが、女子はレオタードでなくてはいけないという暗黙のルールがあった。でも今は、女子もボディースーツを着られることがはっきりした。
個人的にはレオタードで全くハッピーだけれど、選択肢があると分かったことは素晴らしい。ドイツの選手たちは世界に、体操界に、そして若い女子選手たちに、自分が着たい衣装を選べることを教えてくれたのだ。