最新記事

音楽

音楽界のカメレオン、セイント・ヴィンセントが70年代に回帰

St. Vincent’s Latest Persona

2021年06月01日(火)18時07分
デービッド・チウ
シンガーソングライターのセイント・ヴィンセント

伝説の女優をモデルにファッション面でも70年代をよみがえらせた PHOTO BY ZACKERY MICHAEL

<1作ずつキャラクターを変えるセイント・ヴィンセントが、新譜で幼少期に父と聴いたレコードを振り返った>

シンガーソングライターのセイント・ヴィンセントことアニー・クラーク(38)は、アルバムを出すたびデヴィッド・ボウイのようにキャラクターを変えてきた。

2011年の『ストレンジ・マーシー』では「薬物依存症の主婦」、17年の『マスセダクション』では「精神科病院にいるSMの女王様」。新作『ダディーズ・ホーム』では物騒だが自由で開放的だった1970年代のニューヨークに回帰し、アンディ・ウォーホルの世界を体現する。

オクラホマ州出身のクラークは昔から70年代のニューヨークに憧れていた。「ダウンタウンのカルチャーシーンが最高に盛り上がっていた時代よ」と、彼女は説明する。

「生活は苦しくても音楽は素晴らしかった。60年代の瓦礫をかき分け、廃虚の中で力強く歌っている感じ。何となく今の時代にも通じる。私たちは古い権威を見直し、解体する過渡期にあるから」『ダディーズ・ホーム』は幼い頃父が聴かせてくれたレコードへのオマージュ。Pファンクやポインター・シスターズ、スティービー・ワンダー、スティーリー・ダン、ピンク・フロイド、『ヤング・アメリカンズ』期のボウイを想起させるサウンドだ。

「彼らの音楽がずっと耳に残っていて、その洗練に近づきたかった。先達の作品をきちんと学んで理解する力量がなかった頃でも、私は本能的に引き付けられていた」

トレードマークのシュールなサウンドスケープ、エッジの効いた歌詞、超絶ギタープレイに見事なボーカルは健在。だが全体のムードは未来的な前作『マスセダクション』からがらりと変わって、温かく内省的だ。

「前作のメッセージが『ハイになって、足から血が出るまで踊りなさい』だったとしたら、今回は『そのくたびれた肘掛け椅子でくつろいで、テキーラでも飲んでって』かな」と、クラークは言う。

「親しみやすい雰囲気になったのは、笑いと共感を込めて人を描いたから。登場人物の大半が私の分身だからこそ、不完全な人間が必死で生きる姿を表現できたのだと思う」

第1弾シングルのファンキーな「ペイ・ユア・ウェイ・イン・ペイン」を、クラークは現代版ブルースと呼ぶ。「社会はしばしば生存と尊厳のどちらか1つを選べと迫る。お金がない、恋人に捨てられた、世間で爪はじきにされたというのは、どれもブルースのテーマ。この曲ではそんな孤立感を歌った」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

フジ・メディアHD、独立性確保した調査委設置 中居

ビジネス

牧野フライスの同意得られなくても、計画通り進めてい

ビジネス

景気判断は維持、米政策動向・物価高・中国リスクなど

ビジネス

リスク増やす想定でないと理解=運用利回り引き上げ提
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    レザーパンツで「女性特有の感染症リスク」が増加...…

  • 2

    24歳年上の富豪と結婚してメラニアが得たものと失っ…

  • 3

    メーガン妃とヘンリー王子の「山火事見物」に大ブー…

  • 4

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 5

    なぜ女性の「ボディヘア」はいまだタブーなのか?...…

  • 1

    メーガン妃とヘンリー王子の「山火事見物」に大ブー…

  • 2

    24歳年上の富豪と結婚してメラニアが得たものと失っ…

  • 3

    レザーパンツで「女性特有の感染症リスク」が増加...…

  • 4

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 5

    「男性に守られるだけのヒロイン像」は絶滅?...韓ド…

  • 1

    ヨルダン皇太子一家の「グリーティングカード流出」…

  • 2

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 3

    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…

  • 4

    キャサリン妃の「結婚前からの大変身」が話題に...「…

  • 5

    韓国Z世代の人気ラッパー、イ・ヨンジが語った「Small …

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:トランプの頭の中

特集:トランプの頭の中

2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る