女性の活躍を妨げる「ガラスの天井」を破るのは、男性の仕事だ
MEN’S ROLE IN GENDER EQUALITY
90年代初頭、ハーバード・ビジネス・レビュー誌は労働観と家庭観の変化を指摘した。新世代の男性は育児に関わり配偶者とより対等な関係を築きたいと考えており、「男が決めた米企業の在り方は、もはやわれわれの生活に合わない」と訴えた。
しかし約30年後の今も、男性は時代遅れの男らしさに縛られ、育児や介護への関わりを制限されている。
15年にNYTは、00年前後に成人したミレニアル世代の男性は前の世代より男女平等の意識が高いが、その生活は父や祖父とおおむね変わらないと報じた。相変わらず労働時間が長く、育児にはほとんど関わっていないというのだ。企業の多くが育児に積極的な男性を、よくて変人、最悪の場合は怠け者と見なすのを思えば、驚くには当たらない。
育児休暇は大企業ではごく一般的な制度だが、男性の取得率は女性に比べて格段に低い。18年の人的資源管理協会の報告によれば、育児休暇を取れる環境にいるなかで制度をフルに活用した人は、女性では66%だったが、男性では36%にとどまった。
19年5月に金融大手JPモルガン・チェースは、育児休暇をめぐり男性社員らが起こした集団訴訟で和解し、原告側に500万ドルを支払うことに合意した。
女性の利益は男性の損失というゼロサム思考
同社は「育児の主な担い手」に最大16週間の休暇を認めている。しかし、オハイオ州で詐欺調査を担当する男性社員が17年に14週間の育児休暇を申請すると、妻が主な担い手になれないか復職済みでない限り、男性社員は2週間を超えて取得することはできないと告げられた。
上司たちは、彼がそのような役割を自ら選択するかもしれないとは、想像が及ばなかった。さらに自社の育児休暇制度は、建前と違って男性の育児を支援するものではなく、女性だけのためだと考えていた。
ジェンダーに基づく差別との闘いに男性が主体的に参加することが必要であるだけでなく、男女双方にとって有益なら、なぜもっと多くの男性が参加しないのだろうか。
男性は伝統的な期待に背くことに抵抗を感じる、女性の利益は男性の損失になるというゼロサム思考にとらわれている、男女の不平等に関する会話の中で自分の居場所が分からなくなる││といった理由が考えられるだろう。あるいはこれらが重なり合っているかもしれない。
バラク・オバマ元米大統領がイリノイ州上院議員時代に、幼い娘の病気を理由に採決を欠席した際、同僚議員のドン・トロッターは報道陣に言った。「子供を言い訳にして仕事をさぼるとは、彼の人格の貧しさが知れる」。こうした批判があると男性は、仕事を最優先するべきだという考え方に逆らいにくくなる。