スターダムを駆け上ったビリー・アイリッシュは......これからもきっと大丈夫!
This Teen Star Should Be OK
『世界は少しぼやけている』のスタイルも、主体的な在り方という印象を強める。告白調ながら演出が行き届いたスウィフトやビーバーのドキュメンタリーと違って、ここでは宣伝のにおいがあまりしない。ナレーションはなく、視聴者は観察者の立場になって、兄との作曲風景やストレスだらけの欧州ツアーを目撃し、運転免許試験に合格して、憧れの車であるダッジ・チャレンジャーを贈られたアイリッシュの姿を目にする。
ドキュメンタリー映画『クリントンを大統領にした男』『ファッションが教えてくれること』で知られる監督のカトラーが参考にしたのは、60年代のボブ・ディランを飾り気なしに捉えた『ドント・ルック・バック』などだ。本作の最終的な編集権限はカトラーに委ねられた。
真実を語る者への願い
これまで秘めていた元彼のQ(ラッパーの7:AMP)との問題含みの恋愛、ステージでの負傷、孤独、持病のトゥレット症候群によるチック障害、歌手を続けることへの疑問――知られざる側面を描き出すこの作品を見たときは興奮し、衝撃を受けたと、アイリッシュは発言している。
13歳でキャリアを始めたアイリッシュは今や19歳。本作は、思春期の鬱や名声に対処しようともがいていた暗い時期を捉えたものだと、最近のインタビューでは話している。今は再び作曲を楽しむようになり、有名になったおかげで、自らが重視する気候変動問題や人種的平等について発言する場があることに感謝しているという。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)中に発表した曲「ゼアフォー・アイ・アム(ゆえに我あり)」では、元彼のような人々や一部のメディア、そして彼女を知っていると思い込みプライバシーを侵害するファンを非難する。
閉店後のショッピングモールが舞台の「ゼアフォー」のビデオで、アイリッシュはジャンクフードを貪りながら吐き捨てるように歌詞を口ずさむ。トレードマークのだぶだぶの服の下の豊かな体形を捉えたタブロイド紙の写真を見て、オンラインで彼女を中傷した愚か者たちへの反撃だ。
以前は外見の欠点にこだわる醜形恐怖症に悩まされ、それが自傷や自殺願望につながった。だが、あの素敵に風変わりな(ヒップホップに影響された)バギースタイルが創造性のはけ口になったという。彼女の音楽に付随する独創的なビジュアルセンスは、本作のあちこちで顔を出す。
アイリッシュのことが心配になる場面もある。だが『世界は少しぼやけている』は総じて、彼女の今後の長いキャリアを楽しみにさせてくれる。
自身が英雄視する環境保護活動家グレタ・トゥーンベリと同じく、アイリッシュは衝撃的なまでに真実を口にする。大勢を相手に真実を語ることにはリスクが伴うが、彼女たちのような若者が今すぐそうしなければと考える理由は簡単に想像できる。
人々が彼女たちに耳を傾けることを願う。(アイリッシュの母親の言葉を借りれば)これまでに同じ道を歩んだ者のように、彼女たちが罰せられたりしませんように......。
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