世界が見習う日本の「森林浴」 新型コロナが人気を後押し
葉にトゲがある植物のイラクサ属についても注目した。葉にふれると、その肌の箇所がかなり痛痒くなるため嫌われている(しばらくすると痛みは治まる)が、実は薬品や料理に使われている。茎の先端に生え始めた葉はトゲがないとのことで、これも参加者たちで味わってみた。
アロマセラピーで知られているように、香りは心身の不調を軽減させる重要な要素だ。モミやイラクサの香りを集中的にかいだため、筆者はこの前半の時点ですでに気分がよくなっていることに気づいた。
森と一体になる感覚
後半では体に意識を向け、呼吸、皮膚感覚、耳を澄ませること、植物の観察に集中した。
よい呼吸とは鼻から吸って口から吐くやり方だが、「実は二拍子ではなく、間に一瞬息を止める三拍子です」とゲシュリンさん。三拍子の呼吸をしながらしばらく歩くと、少し開けた場所へ出た。
強めの日差しが届き、ゲシュリンさんの指示で目を閉じて太陽へ顔を向けてみる。日光を顔や手にまんべんなく浴びるため、顔や腕をゆっくり動かした。次は、目を閉じたまま直進することに挑戦。多少探り足になりつつ、大地を踏みしめることを楽しんだ。
小川に近づきはじめた場所では、両耳に両手を当てて水の音を聞いた。これにも驚かされた。耳に手を当ててみると水の音が拡張し、まだ見えない小川の存在がはっきりとわかったのだ。
そのあとは、紙製のフォトフレームが各自に手渡され、葉、木、苔、キノコなどなんでもいいのでフレームを当てて観察してみようという時間だった。
最後は、森で一人きりの時間を味わうソロタイムが待っていた。自分だけの居場所と感じられた空間で静かに過ごすのだ。筆者は木々の間に座り、周囲を眺めたり空を見上げたりし、この森林浴に参加できたことを幸せに感じた。
筆者は日本で森林浴を体験したことがない。森林浴で五感を研ぎ澄ますという意味が、今回とてもよくわかった。散歩でも草木を見たり鳥の声に耳を傾けたりはするが、より時間をかけて森に意識を向けることの意義を実感し、帰宅してからも森林浴のよい効果(本当に気分がよかった)は数日続いた。
公園での「ランチタイム公園浴」が人気
森林浴は、スイスのマスコミも徐々に取り上げている。ゲシュリンさんいわく、スイスの人たちが定期的に森林浴に出かけるようになるにはもう少し時間がかかるだろうとのことだ。
それでも、ゲシュリンさんが都市部の公園で実施しているお昼1時間の公園浴は、とても人気が高まっている。
新型コロナウイルス感染の終息はまだ見えない。高い健康効果が期待できるアクティビティとして、コロナ禍・コロナ後にスイスでも森林浴が定着する可能性は高い気がする。
[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com