シャーロック・ホームズの世界で活躍する女性たち
Women Bursting Sherlock’s Bubble
女性が活躍するホームズ物のパスティーシュは数多いが、その最新版がネットフリックス配信の映画『エノーラ・ホームズの事件簿』だ。
主役でシャーロックの妹エノーラを演じるのはTVドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』で注目を浴びた16歳のミリー・ボビー・ブラウン。彼女はホームズ家の田舎家で母親(ヘレナ・ボナム・カーター)と暮らしている。母親は娘に針仕事や料理の代わりに室内でテニスをさせ柔術を仕込む型破りなタイプだが、エノーラはそんな母が大好きだ。
ある日突然、母が失踪。エノーラは疎遠になっていた兄のシャーロックとマイクロフトに連絡を取る。マイクロフトは妹をしつけの厳しい寄宿学校に入れて、さっさと結婚させようとするが、エノーラは逃げ出して母を探しにロンドンに向かい、その途中で謎めいた暗殺者に狙われる若いハンサムな侯爵(ルイス・パートリッジ)を助ける。
かわいい少女が胸のすくアクションを見せてくれる痛快なパスティーシュだが、難点は展開が読めてしまうこと。エノーラの母親と仲間の女性たちが参政権の獲得を目指しているのも、いかにもありそうな設定だ。ビクトリア朝時代の窮屈な女性の衣服やジェンダー意識を皮肉るくだりもそう。この映画のフェミニズムばりの主張には異論はないものの何の目新しさもない。
ホームズ兄弟に妹がいるという設定はこの映画が初めてではない。BBCのドラマSHERLOCK(シャーロック)』のシーズン4には、2人の兄より知能が高いユーラス・ホームズが登場する。ただし彼女は殺人衝動に駆られたサイコパスだ。
竹内結子の名演が光る
ユーラスはさておき、ホー ムズ物のパスティーシュに登場する女性たちは総じて賢く強く美しい。TVドラマ『エレメンタリーホームズ&ワトソン in NY』は、物語の舞台をビクトリア朝のロンドンから現代のニューヨークに移し、ルーシー・リュー演じる女性版ワトソンがジョニー・リー・ミラー演じるホームズとコンビを組む。
元祖ホームズ・シリーズの「男社会」的な精神風土を一変させるには、シャーロックその人を女性にしてしまうのが一番手っ取り早い。原作に果敢に挑む心意気や大胆さで、フェミニズム風パスティーシュの最高傑作の名にふさわしいのはHuluとHBOアジアの共同製作ドラマ『ミス・シャーロック』だろう。舞台は現代の東京。ホームズもワトソンも女性という設定だ。
「シャーロック」のニックネームで呼ばれるのは捜査コンサルタントの双葉・シェリー・さら。演じるのは9月に急逝した竹内結子だ。天才的な推理力を誇る彼女は事件現場に乗り込むと、平然とぶしつけな質問をし、一瞬もひるまずに遺体に手を突っ込む。そして、誰もが見逃す些細な事柄に目を付けて難解な謎を解く。彼女の相棒は「わとさん」。シリアで医療ボランティアをしていた女性医師の橘和都(貫地谷しほり)だ。
竹内演じるシャーロックは尊大で謎解き一筋。他人にどう思われようが全く気にしない。ヒロインの人物造形としてはこれまでなかったパターンで、見ていてワクワクする。
冷徹無比な竹内版シャーロックは身近にいたら実に扱いにくい人間だが、原作のホームズもそうだ。ドイルが描いた世界を引っくり返すなら、せめてホームズと同じくらい偏屈で、それでいて素晴らしい天才にその仕事を任せたい。
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