白人っぽ過ぎ?「カレン」が人気急落
Bye Bye, Karen
悪魔の別名も認められる
なぜカレンは白人優越主義の女性を象徴する名前になったのか。一つには、あまりにもありふれた名前であるためだ。女性なら誰がカレンと名乗ってもおかしくない。その一方、メディアから「差別意識・特権意識丸出しの困った白人中年女性」と名指しされた人に、本物のカレンは一人もいない。軽蔑的な意味合いを背負うには、カレンという名はちょうどよかった。
しかもカレンは「純粋さ」を意味する。そして純粋・純潔は純白に通じる。だから白人が特権的存在であることを当然と考える社会では、誰からも好かれる名前だった。
今は時代が違う。白人の特権を主張するのは恥ずべきこと、許されないこととされている。だから、そんな主張を体現するカレンという名も忌避される。実際、人種差別を原則として禁じる公民権法が成立した1964年を境に、カレンという名の人気は落ちる一方だ。
この先、カレン人気が復活することはあるだろうか。少なくとも現時点では、あり得ないと思える。半世紀以上も続く長期低落傾向を反転させるのは至難の業だ。このままだとカレンも、遠からずアドルフやグイドと同じ運命をたどることになる。
それでも、カレンが赤ちゃんの名前の候補リストから永遠に抹消されることはないだろう。リリスやアズラエル、カインなど、聖書で邪悪な人物や出来事に関連付けられている名前でさえ、今は超スタイリッシュな名前としてもてはやされている。死や破壊を連想させるエレクトラ、オシリス、パンドラ、ハデスなども、今ではファッショナブルな名前とされている。1000年、2000年の歳月が流れれば、どんなに暗いイメージも忘れ去られるのだろう。
イギリスでは今年7月、息子を「ルシファー」と名付けた両親が出生届を提出した際、受付の職員から「そんな名前は付けないほうがいい」と言われたことに苦情を申し立て、役所から謝罪を受けた。ルシファーがサタン(悪魔)の別名だったのは昔の話で、自分たちは響きのいいユニークな名前だと思ったという。
その子の父親は言ったものだ。「ね、素敵な名前だろ」
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[2020年9月22日号掲載]