物怖じせず意見を堂々と発言するフランス人の「学力の土台」は食卓にある
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<論破することが目的ではありません。人の意見を理解し自分の考えを伝える食卓での議論は、子どもの「自己を明確」に。そして賢くするものです。>
1日平均2時間13分。何の時間だか分かりますか?
これはフランス人が1日の食事に費やす平均時間(OECD)です。堂々の世界一です。フランス人にとって食事は「栄養補給」だけが目的ではありません。家族のコミュニケーションを密にし、信頼関係を深める時間を兼ねているのです。家族全員が食卓で顔を合わせて、食事を食べながらその日にあった出来事を話し合うのはフランス文化の一部です。
食卓でアイデンティティを磨く
フランス人はディベート好きで自分の考えを絶対に曲げないことで有名ですが、その気質は食事中の会話によって育てられるといっても過言ではありません。食事を食べながら、身近なトピックや時事問題など、様々な出来事について互いに意見を言い合うのはフランスではごく当たり前に見られる風景です。
でも口論をしているわけではありません。議論で感情的になるのは「食事を楽しむ文化」があるフランスでは御法度です。食事中の議論は相手を論破しようというものではありません。他者の意見を尊重しつつ、自分の考えもしっかり伝える。納得できないことや疑問に思うことは放っておかずにきちんと相手に質問する。家族と言えども、人は一人ひとり異なる価値観や個性を持つユニークな存在であるという前提で「議論のプロセス」を楽しんでいるのです。
食卓は子どもが人の話を聞いたり、自分の意見を言葉で分かりやすく表現する訓練の場にもなっています。フランス人の子どもたちは、親、兄弟、ゲストと食卓で議論を交わしながら成長するので、大人相手でも物怖じせず会話ができ、自分の意見を堂々と発言できるように育ちます。
小さい時から自分で考え、自分で答えを見つけ、自分の言葉で伝える経験を積み重ねると、自分は何が好きで、何を大切にし、どんな人生を歩みたいのか、アイデンティティが明確になっていきます。フランス人は良くも悪くも「我が道を行く国民」と言われますが、その本質は「自己が明確」ということなのです。
食事の中でマナーやしつけを伝える
食事は子どもに自立やマナーを教える場でもあります。フランス人家庭では、幼い子どもにも家事の役割が与えられます。朝起きてテーブルにお皿とナイフを並べる、バターやジャムを冷蔵庫から出す、戸棚からパン(バケット)を出す、食器を片付けるなど、子どもも家族の一員として役割を担うのです。
フランス人は、朝、昼、晩と食事をとるのが一般的です。つまり家事の中でも食事に関わる雑用が圧倒的に多いのです。母親一人に家事の負担がのしかかることがないように家族全員が分担することで、家族の一員としての自覚と責任を理解すると同時に、自分のことは自分でできる自立した子に育ちます。
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