亡き娘にもう一度会いたい──死者にVRで再会する番組の波紋
Virtual Reality, Real Grief
『ミーティング・ユー』では母親が「復活」した娘と対面 MBCLIFE/YOUTUBE
<急死した幼い娘と「対面」した韓国の母親が話題に。死者を生き返らせる仮想現実の技術が突き付ける疑問>
死は万人に平等に訪れるが、死の受け止め方は人それぞれだろう。さらに、最近は新型コロナウイルスの影響でテレビ会議アプリを使った「Zoom葬儀」が増えるなど、バーチャルな交流や空間が一気に身近になった。
では、先立たれたわが子にVR(仮想現実)の中で再会できるとしたら?
これは誰もが喜ぶわけでもなさそうだ。実際、私がこのアイデアを説明した多くの人は、批判的な反応だった。
先日、韓国のある母親が、2016年に血液の病気で急死した幼い娘とVRで再会を果たした。今年2月にドキュメンタリー番組『ミーティング・ユー』で放映されて話題になり、再会の場面のビデオクリップはYouTubeで2000万回以上再生されている。
制作したのは大手テレビ局のMBC(韓国文化放送)。6つのスタジオで、1年近くかけてVRを完成させた。
米シカゴ大学のトム・ガニング教授(映画史)によると、写真や映画は19世紀に「人間の命の究極の限界、つまり死に対する技術的な対応として」歓迎され、「記憶の客観的な形」「死に対する人類の勝利」として広まった。
【参考記事】ホロコースト生存者とVRでリアルに対話
死んだ人間をテクノロジーで生き返らせる話は、フィクションではおなじみだ。ただし、そのほぼ全てがディストピアの文脈で語られる。
アマゾンのオリジナルドラマ『アップロード~デジタルなあの世へようこそ~』は、死を目前にした人間の意識をVRの死後の世界にアップロードしておくというSFコメディーで、現実世界の生きている人ともやりとりができる。死を(たいていはカネのかかる)ハイテクで克服しようとする発想の物語はほかにも多い。死者の意識を保存する代わりに再現するパターンもある。
一方で、ノンフィクションの試みはより思索的だ。技術ジャーナリストのジェームズ・ ボラホスは17年に、末期癌の父親の人 となりを表すデータをチャットボットに教え込み、父親のAIレプリカ「ダッドボット」を作成した。
インディーゲームの『ザット・ドラゴン、キャンサー』は、プログラマーの父親が、希少癌と診断された幼い息子に迫る死を受け入れる手段として開発した。
リアル過ぎてもダメ?
ただし、テキストでやりとりする「ダッドボット」や、『ドラゴン』のような非現実的な芸術の様式とは違って、『ミーティング・ユー』のVRの子供は意図的に本物らしく作られている。その点は注目を集めた理由であると同時に、視聴者が当惑する要因かもしれない。