最新記事

テクノロジー

亡き娘にもう一度会いたい──死者にVRで再会する番組の波紋

Virtual Reality, Real Grief

2020年07月02日(木)16時55分
バイオレット・キム(スレート誌記者)

『ミーティング・ユー』では母親が「復活」した娘と対面 MBCLIFE/YOUTUBE

<急死した幼い娘と「対面」した韓国の母親が話題に。死者を生き返らせる仮想現実の技術が突き付ける疑問>

死は万人に平等に訪れるが、死の受け止め方は人それぞれだろう。さらに、最近は新型コロナウイルスの影響でテレビ会議アプリを使った「Zoom葬儀」が増えるなど、バーチャルな交流や空間が一気に身近になった。

では、先立たれたわが子にVR(仮想現実)の中で再会できるとしたら?

これは誰もが喜ぶわけでもなさそうだ。実際、私がこのアイデアを説明した多くの人は、批判的な反応だった。

先日、韓国のある母親が、2016年に血液の病気で急死した幼い娘とVRで再会を果たした。今年2月にドキュメンタリー番組『ミーティング・ユー』で放映されて話題になり、再会の場面のビデオクリップはYouTubeで2000万回以上再生されている。

制作したのは大手テレビ局のMBC(韓国文化放送)。6つのスタジオで、1年近くかけてVRを完成させた。

米シカゴ大学のトム・ガニング教授(映画史)によると、写真や映画は19世紀に「人間の命の究極の限界、つまり死に対する技術的な対応として」歓迎され、「記憶の客観的な形」「死に対する人類の勝利」として広まった。

【参考記事】ホロコースト生存者とVRでリアルに対話

死んだ人間をテクノロジーで生き返らせる話は、フィクションではおなじみだ。ただし、そのほぼ全てがディストピアの文脈で語られる。

アマゾンのオリジナルドラマ『アップロード~デジタルなあの世へようこそ~』は、死を目前にした人間の意識をVRの死後の世界にアップロードしておくというSFコメディーで、現実世界の生きている人ともやりとりができる。死を(たいていはカネのかかる)ハイテクで克服しようとする発想の物語はほかにも多い。死者の意識を保存する代わりに再現するパターンもある。

一方で、ノンフィクションの試みはより思索的だ。技術ジャーナリストのジェームズ・ ボラホスは17年に、末期癌の父親の人 となりを表すデータをチャットボットに教え込み、父親のAIレプリカ「ダッドボット」を作成した。

インディーゲームの『ザット・ドラゴン、キャンサー』は、プログラマーの父親が、希少癌と診断された幼い息子に迫る死を受け入れる手段として開発した。

リアル過ぎてもダメ?

ただし、テキストでやりとりする「ダッドボット」や、『ドラゴン』のような非現実的な芸術の様式とは違って、『ミーティング・ユー』のVRの子供は意図的に本物らしく作られている。その点は注目を集めた理由であると同時に、視聴者が当惑する要因かもしれない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アクティビスト、世界で動きが活発化 第1四半期は米

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 3

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 4

    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…

  • 5

    24歳年上の富豪と結婚してメラニアが得たものと失っ…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 3

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 4

    アメリカ日本食ブームの立役者、ロッキー青木の財産…

  • 5

    「ポリコレ」ディズニーに猛反発...保守派が制作する…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    レザーパンツで「女性特有の感染症リスク」が増加...…

  • 3

    「日本のハイジ」を通しスイスという国が受容されて…

  • 4

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 5

    「なぜ隠さなければならないのか?」...リリー=ロー…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:引きこもるアメリカ

特集:引きこもるアメリカ

2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?