「史上最高」の一曲を携えて、The 1975がまたまた進化し始めた
Genre-bending The 1975 Is Back
ヒーリー (写真中央)は時代に挑んだ
<深いテーマに分け入りつつメッセージ性を強めた新作について、ボーカルのマシュー・ヒーリーが語り尽くす>
イギリスのロックバンドThe 1975とファンの間には、デビュー当初から暗黙の了解がある。彼らはいくら変わっても許されるという了解だ。
だから、リードボーカルのマシュー・ヒーリーが「バンドは近いうちに解散する」と言っても、それを撤回して次々とアルバムを発表しても、ファンはすっかり慣れっこだ。
ヒーリーはファンを混乱させたいわけではない。別プロジェクトであるドライブ・ライク・アイ・ドゥの復活やゲーム音楽の制作など、やりたいことがあり過ぎるだけだ。
それでも最近はニューアルバムの制作に打ち込んでいて、5月22日には『仮定形に関する注釈』が発売された。予定より1年遅れの発売。それでも「ファンの期待度おり、期待を裏切るものにする」というヒーリーの言葉そのままに、バラエティーに富んだ曲が詰め込まれている。
幻想的なサウンドの「イフ・ユーア・トゥー・シャイ(レット・ミー・ノウ)」は、ファンが発売前の段階のアンケートで、このバンドの「史上最高」の一曲に選んだアップビートな作品だ。別れを歌った「トゥナイト(アイ・ウィッシュ・アイ・ワズ・ユ ア・ボーイ)」は、聴けば必ず昔の恋人を思い出す。
コロナ禍を予言した?
幸福感あふれるサウンドは相変わらずだが、進化の兆しもある。深みを増した曲のテーマは宗教や性、個人のアイデンティティー、人間関係やメンタルヘルスと広範囲に及び、メッセージ性を強めた。
ヒーリーとジョージ・ダニエル(ドラム)、アダム・ハン(ギター)、ロス・マクドナルド(べース)の4人から成るこのバンドは、ポップスの変革を牽引し、重いテーマも積極的に扱ってきた。
2018年の前作『ネット上の人間関係についての簡単な調査』では、ヒーリーの薬物依存との闘いも取り上げた。
ドナルド・トランプ米大統領の発言を引用して政治的なメッセージを込めた「ラヴ・イット・イフ・ウィ・メイド・イット」は、音楽サイト「ピッチフォーク」で18年のべストソングに選ばれた。