不安と恐怖以外にみんなで共有できるもの──フィオナ・アップルが自宅で歌う隔離と解放
The Unofficial Album of the Pandemic
「ニュースペーパー」という曲では、くぐもった犬のほえる声と暖房のかすかな機械音が退屈そうなドラムビートと調和し、やがてアップルがハミングを加え始める。朝のコーヒーを片手に即興で作曲しているかのようだ。アップルが家の外に出ずに済むように、聴き手を自宅に招き入れたような感覚がある。
『フェッチ・ザ・ボルト・カッターズ』のメロディーは、予期せぬ来客のように突如やって来て、また突如去っていく。1つの曲の中でたびたびメロディーが変わる場合もある。その感覚は、夢の中で、それまで存在に気付いていなかった新しい部屋を自宅に見つけるのと似ている。自分がどこにいるか分かったと思った瞬間に、その空間が変わり始めるのだ。
しかし、アップルは長い過酷な日々を経験した末、自分がどこにいるのかを理解したようだ。「ボルトカッター(チェーンなどを切断する工具)を持ってこい。私はここに長く居過ぎた」と歌う。
私たちがいつ再び外の世界に出ていけるかは分からない。それでも、その日が来たときにどのように外へ出ていけばいいかを知っている人の言葉を聞いておいて損はない。
© 2020, Slate
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