世界一過保護な国アメリカでは、日本の親は全員ネグレクト
保護が行き過ぎるとヘリコプターになる
話をアメリカに戻しましょう。アメリカの親は子どもの安全保護のため、そして、ネグレクトの疑いをかけられないために、子どもの行動を四六時中監視します。これが習慣化すると「ヘリコプターペアレント」と呼ばれ、子どもの自立を妨げる行動へと発展していく可能性があるのです。
ヘリコプターペアレントは、上空を旋回するヘリコプターのごとく、子どもを常に監視します。やがて見守るだけでは飽き足らなくなり、子どもの行動を朝から晩まで管理し、干渉し、親の思い通りにコントロールするようになります。
親から過剰な干渉を受けて育った子どもは、自主性に乏しく、自分で何も決断できず、親の顔色ばかり伺う、依存心が強い性格になってしまいます。行き過ぎた保護も、視点を変えれば「虐待」なのです。
自由を尊重するアメリカ人の子育てのゴールは「子どもを自立させること」です。そのためには子どもの自主性を伸ばし、自由にやりたいことをやらせることが必要です。ところが犯罪多発国家でもあるアメリカは、小学生の子どもが一人で遊ぶことすらできない「過保護な国」になり、自立できない子どもを増産する結果になったのです。
最近では過保護に反発する動きも出てきています。2018年にユタ州で「フリーレンジペアレント法/Free Range Parenting Law」が成立しました。これは子どもたちの自立心を育むために親は干渉しないという法律です。これによりユタ州では、子どもを一人で登下校させたり、自由に公園で遊ばせることが可能になり、親もネグレクトで告発されることがなくなりました。
一人ひとりが家庭崩壊を食い止める努力を!
児童虐待が急増している日本でも虐待の早期発見と発生予防が重要課題となっています。もちろん規制の強化や、社会の認知を高めることは大切です。しかし、虐待問題の根本にあるのは「家族の崩壊」です。現代社会は、親が子を愛し、精一杯可愛がり、命がけで守るという生物として当たり前のことができないほどゆがんでしまっているのです。
仕事・家事・育児のすべてを母親ひとりで回す「ワンオペ育児」や父親の育児参加率の低さなど、日本の子育て環境は理想とは言えません。虐待は、親の学歴や社会的階層に関わらず、どんな家庭でも起こり得る問題です。虐待を他人ごとと思ってはいけません。自分が「加害者」にならないためにも、パートナー間や親子間の信頼関係を強め、互いを思いやる家族関係を作ることが急務です。
[執筆者]
船津徹
TLC for Kids代表。明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て幼児教育の権威、七田眞氏に師事。2001年ハワイにてグローバル人材育成を行なう学習塾TLC for Kidsを開設。2015年カリフォルニア校、2017年上海校開設。これまでに4500名以上のバイリンガル育成に携わる。著書に『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)がある。
2020年3月10日号(3月3日発売)は「緊急特集:新型肺炎 何を恐れるべきか」特集。中国の教訓と感染症の歴史から学ぶこと――。ノーベル文学賞候補作家・閻連科による特別寄稿「この厄災を『記憶する人』であれ」も収録。