英王室メンバーが低所得層の町の公営住宅に。屈指のユーモア小説が示すのは......
A Prescient Comic Read
<宮殿を追われた王族が庶民の町に引っ越して...... 英王室メンバーのドタバタを描いた1992年の小説が示唆するもの>
王族が庶民に交じって生活するなんて、すごい発想。だからこそ、ヘンリー英王子とメーガン妃の英王室離脱は大ニュースになった。
一家はカナダに実質的な拠点を移すとのことだ。ヘンリーが近所のジムで汗を流したり、メーガンが生協でアルバイトをしたりする姿が見られるのだろうか。
さすがにそれは考えにくい。庶民とは懸け離れた豊かな生活が続くだろう。
それでも、私はこのニュースを聞いて、1990年代屈指のユーモア小説を思い出した。スー・タウンゼンドの92年の小説『女王様と私』(邦訳・第三書館)だ。
【参考記事】ロイヤルウェディングの招待状がほのめかしていたメーガン妃の離婚歴
英王室メンバーが本名で登場する本作ではヘンリー(当時は小学生)だけでなく、一族全体が王族としての生活に別れを告げる。王制廃止派が選挙に勝ったために王族は宮殿を去り、通称「地獄横町」という低所得層の町の公営住宅に住むことになるのだ。
エリザベス女王は、新居で引っ越しトラックから自分で家具を降ろす。チャールズ皇太子とダイアナ妃(離婚する前だった)もこの町に移り住む。ダイアナはジーンズ姿。チャールズは静かな日々を楽しみにしている。
『女王様と私』では、宮殿を去り、莫大な資産と身の回りの世話をするスタッフを失った王族たちが日々の暮らしに悪戦苦闘する様子が描かれる。
女王(法律により「ミセス・ウィンザー」が呼称になった)はブラジャーの着け方に苦労し、チャールズは腐敗した警察に逮捕されてしまう。買い物をしたり、病院で診察を受けたりするために、行列に並ばなくてはならない。
この小説の大きな魅力の1つは、ダイアナを笑いの対象にすることが許された最後の時期に書かれたという点だ。
92年には、チャールズが現在のカミラ夫人と不倫関係にあり、ダイアナが絶望の底にいたことが広く知られるようになる。ダイアナは96年にチャールズと離婚し、97年にパリで交通事故死する。