モラル・バイタリズムの賜物? 魔女信仰と感染症防止の関係に新説
Witchcraft and Disease
魔女信仰には感染症の広がりを防ぐという意外な効果があった(写真はイメージ)MmeEmil-iStock
<「超自然的な悪」の存在を信じる気持ちが病気を地域から遠ざける役割を果たした可能性>
魔女や悪魔の存在は、感染症が流行した原因として解釈され、感染症の蔓延を防いでいた可能性がある──多国籍の研究チームが先頃、学術誌「英国王立協会紀要」にこんな論文を発表した。
それによれば、悪魔のように邪悪で超自然的な力を信じていると、脅威を察知する感覚が高まる。すると人は、感染症などにかからないよう行動パターンを変える。例えば悪魔の存在を強く信じている人は「悪魔に取りつかれている人」(現代語で言えば「病気にかかっている人」)を避ける傾向が強いかもしれない。
論文を発表した研究チームが過去のいくつかのデータを検証したところ、病原体の発生率が高かった時期や地域では、モラル・バイタリズム(この世には善と悪の勢力があり、善い出来事や悪い出来事を引き起こしていると信じる傾向)が高くなっていた。「高いモラル・バイタリズムはプラスにも働く。感染への懸念が高まったことで、人々が対策を取り、感染率が下がったという説明は成り立つ」と、研究チームは書いている。
主な例として彼らが挙げるのは、14世紀に起きた黒死病(ぺスト)の世界的な流行だ。多くの死者を出した得体の知れないが魔女と結び付けられ、魔女狩りが増加した。
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もちろん、黒死病の流行は魔女の仕業ではない。だが魔女狩りなどの行動は人々に安心感を与え、これで病の蔓延を抑えられると信じさせたのではないかと論文は主張する。
保守主義の高まりも助長
その裏付けに、研究チームは過去の2つの研究を引用する。1つは途上国から先進国まで186のさまざまな文化を比較したもの(悪の勢力や魔女信仰に関するデータも含む)。もう1つは、悪魔信仰について50カ国で行った調査だ。いずれの研究でも、邪悪な超自然的存在を信じる率の高さと、病気の発生率の高さには強い相関関係が見られた。