どんなに愛し合っているカップルでも現実は......半世紀前の映画から現代の夫婦が学べること
Ahead of Its Time―and Ours
『ボブ&キャロル&テッド&アリス』は夫婦のリアルな問題をあくまで軽妙に描く YouTube ムービーより
<50年前にアメリカで公開されたセックスコメディー『ボブ&キャロル&テッド&アリス』が現代に問い掛ける「新しい夫婦の形」とは>
ポール・マザースキー監督のデビュー作『ボブ&キャロル&テッド&アリス』がアメリカで公開されたのは1969年秋のこと。2組の夫婦が性に目覚める物語はセンセーションを巻き起こし、同年の映画興行収入第5位にランクイン。アカデミー賞4部門にもノミネートされた。
1人のパートナーに縛られないフリーセックスを若い夫婦が追求するその物語は、カウンターカルチャーやセックス革命が隆盛だった当時にあっても、極めて進歩的な作品だった。
それはちょうど50年たった2019年でも変わらない。
『ボブ&キャロル』は今も時代の先を行っている。ボブ (ロバート・カルプ)とキャロル(ナタリー・ウッド)のサンダース夫妻は、スピリチュアルな保養地で週末を過ごし、自分の気持ちに極端に正直に生きる「美しさ」を学ぶ。そんな2人に、友達のテッド(エリオット・グールド)とアリス(ダイアン・キャノン)のヘンダーソン夫妻は当惑する。
とりわけボブが不貞を告白し、キャロルがそれを許したとき、アリスは気分が悪くなるほど動揺する。一方、キャロルもテニスのコーチと肉体関係を持ち、よりによって自宅の夫婦のベッドで一緒にいるところをボブに見つかってしまう。
ボブは激怒するが、それが体の関係にすぎないと納得すると、やはりキャロルの不貞を受け入れる。こうして2人は、お互いに愛し合い、信頼し合い、正直であり続けるなら、相手の肉体的な欲求を否定する必要はないという合意に達する。
YouTube ムービー
69年の公開時、この映画は当時はやりのセックス革命を皮肉る作品だと受け止められた。実際、ボブとキャロルがやたらと自己啓発的な文句を並べ、お互いの不貞を競うように認め合うシーンは大いに笑いを呼んだ(ボブはキャロルが寝た相手と酒を酌み交わしさえする)。
マザースキー自身には、フリーセックスを支持するつもりも、正常なこととして描くつもりもなかったようだ。ただ、『ボブ&キャロル』は、同じようなテーマを扱う現代のどんな映画よりも、夫婦関係や恋人関係の新しい形を真面目かつリアルに描いている。
『ふたりのパラダイス』(12年)を見るといい。ポール・ラッドとジェニファー・アニストン演じる夫婦が、フリーセックスの掟があるコミューンに迷い込む物語だが、そこに登場するのは中年のヌーディストなど滑稽なキャラクターばかり。「フリーセックスなんてイカれたことを実践するのは変人だけ」という偏見が透けて見える。