どんなに愛し合っているカップルでも現実は......半世紀前の映画から現代の夫婦が学べること
Ahead of Its Time―and Ours
今では扱いにくいテーマ
こうした映画は、主人公カップルが今までとは全く異なる環境でお互いへの愛を再発見してハッピーエンド、というパターンが多い。彼らがフリーセックスを試みることはまずない。『ふたりのパラダイス』も、まさにそうした展開だった。
だが小粒な低予算映画には、一夫一婦とは異なる関係を丁寧に描いている作品もある。
例えば『ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密』(17年)は、嘘発見器を発明したウィリアム・モールトン・マーストンと妻エリザベス、そしてパートナーであるオリーブ・バーンの「3人婚」をきめ細かに描く。3人は計4人の子供を穏やかな調和の中で育てる。
ただ、こうした映画は上映館も少ない場合が多く、興行成績も低い。中には映画館で公開せず、すぐにDVDやオンライン配信になる作品も少なくない。
つまりフリーセックスを夫婦関係の現実的な選択肢として描きつつ、莫大な興行収入を上げた作品は、『ボブ&キャロル』以来誕生していないのだ。
マザースキーとラリー・タッカーの脚本は、登場人物をちゃかしつつ、フリーセックスそのものを非難することはない。
ボブとキャロルは、口先だけで自由な関係をたたえているのではないし、深い怒りや嫉妬を抱えていたりもしない。
むしろこの映画は、嫉妬しない夫婦の間では、パートナー以外の相手で性欲を満たすことが、夫婦それぞれにとってプラスになるかもしれないと提案している。
夫婦が探る最適の関係
その一方で、こうした型破りな関係がどんなカップルにも合うわけではないことも、『ボブ&キャロル』はきちんと描いている。一度不倫をしそうになったけれど、罪悪感からできなかったとテッドが告白すると、ボブは言う。「どうせ罪悪感は持つんだ。チャンスを無駄にするな」
テッドはその助言に従う。キャロルが気にしないのだから、ひょっとするとアリスも気にしないかもしれない、と。ところが、アリスは激怒する。そして、そんなことなら4人でベッドを共にしようと言い出す(それがこの映画のポスターになっている有名なシーンだ)。
このエピソードの結末は明かさないでおくが、映画は2組の夫婦を壊すことなく、むしろ祝福して終わる。
この作品で何より重要なのは、自分たちに合った関係を探る夫婦の試みを否定せず、フリーセックスを無害な楽しみとして描いている点だろう。
例えば、自宅でテニスコーチと関係を持ったことがばれたキャロルがボブに謝罪すると、ボブはユーモアたっぷりに言う。「私には君みたいな勇気はない。サンフランシスコの安ホテルを使うのが関の山だった。でも君は相手をこの家に連れてきた」
状況が違えば、いわば「寝取られ男」が妻の大胆な不貞行為に激怒しているセリフと読めるかもしれないが、ボブはちっとも怒っていない。むしろ夫婦のベッドで別の男と寝るなんて見上げた大胆さだと、妻に純粋に感心している。
映画の結末は、『ボブ&キャロル』が薄っぺらい性の解放や正直さを説いているのではないことを教えてくれる。オープンな夫婦関係を描くと同時に、どんなに愛し合っているカップルでも、相手が求めるものを与えられるとは限らない現実をあくまで楽しく描いている。
そこには、公開から50年たった今も私たちが学べることがたくさんある。
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