全米/全英チャート初登場1位、でも......大人になれないテイラーを新アルバムから分析
A Worthy Successor to “Red”
8月、MTV ビデオ・ミュージック・アワーズで KEVIN MAZUR−WIREIMAGE/GETTY IMAGES
<テイラー・スウィフトの新作『ラヴァー』は洗練され最高に楽しい仕上がりだが、成長には及び腰......>
愛の色は燃える赤だと思っていたけれど、本当はお日様のような金色......嫌なことは水に流して、光の中に踏み出そう。
テイラー・スウィフトは新アルバム『ラヴァー』のラストを飾る「デイライト」で、そう語り掛ける。2012年の『レッド』を踏まえた歌詞だ。スウィフトはこのアルバムに添えた文章で「本物の愛は金色に輝く。いつかそんな愛を見つけたら、それをテーマにアルバムを作るかも」と書いた。
『ラヴァー』はイギリス出身の俳優ジョー・アルウィン(映画『女王陛下のお気に入り』)との3年にわたる交際を下敷きにしている。『レッド』がさまざまな恋の苦しみを歌ったものだとしたら、こちらは関係を維持する苦労を含めた恋愛賛歌だ。
女友達からのろけ話を延々聞かされている気がしないでもないが、全曲のアルバムは最高に楽しい。ダイナミックなサウンドに乗って喜怒哀楽や主張があふれ出す、スウィフトの魅力全開の1枚だ。
『レッド』に回帰し、『ラヴァー』をその続編と位置付けたのは賢い。14年の『1989』では大人になるわくわく感を歌い、続く『レピュテーション』では 大人になることの痛みや難しさを表現。『ラヴァー』でスウィフトは再び恋を中心に据え、少し成熟した視点から見つめた。
【参考記事】テイラー・スウィフト、またの名を「労働者の守護神」という!?
ただし、10年来の天敵であるラッパーのカニエ・ウェストにはどうしても物申したかったようで、オープニング曲「アイ・フォーゴット・ザット・ユー・イグジステッド(あんたの存在なんて忘れたわ)」でチクリ。こんな曲を作ったこと自体が歌詞と矛盾しているが、今までの恨み節よりはずっと明るい。
4曲目の「ザ・マン」では視野を広げ、性差別のはびこる音楽業界や、男女で異なるモラルを押し付けるメディアを鋭く批判。「ミス・アメリカーナ&ザ・ハートブレイク・プリンス」では自分が感じる理不尽を(「あ の娘はワルだと、みんな学校で噂してる」)、トランプ政権下における米社会の崩壊に重ねた(「目の前でアメリカの物語が焼け落ちる」)。だが舞台を高校に設定し、17歳に戻ってしまったのはいただけない。
「私は成長したことがない/そんな自分にうんざり」と歌う「ジ・アーチャー」は、非常に思慮深く内省的だ。『レピュテーション』以来、ほかにも成熟を感じさせる曲はいくつもある。
一方で、彼女が小娘モードに 戻るたび(「ユー・ニード・トゥ・カーム・ダウン」「ME!」)、 こちらはじれったい気分になる。スウィフトも12月には30歳といい大人。長年、人前で決まった役割を演じた末、大人になった自分を持て余すのは子役やアイドルが陥りがちな罠だ。