マイケルが残した「虐待の連鎖」の悲しい謎──被害男性とその家族の20年
Questioning the “Cycle of Abuse”
2005年5月5日、カリフォルニア州サンタバーバラ郡の裁判所を出るマイケルと父親のジョセフ Lucas Jackson LJ/HK-REUTERS
<話題騒然のドキュメンタリー映画が突き付けた、世紀のポップスターの心の闇と今も残る疑惑>
子供のときマイケル・ジャクソンから性的虐待を受けた──。ウェイド・ロブソンがそう打ち明けたとき、もちろん妻のアマンダは大きな衝撃を受けた。だが、次第に自分たちの息子のことが心配になってきた。「『(息子に)変な愛情表現していないわよね?』と聞いてしまった」と、アマンダはドキュメンタリー映画『リービング・ネ バーランド』で当時を振り返っている。
世紀のポップスター、マイケル・ジャクソンが10歳前後の少年たちをカリフォルニアの自宅「ネバーランド」に招き、性的虐待を働いていたという疑惑は、彼の生前から付きまとっていた。
『リービング・ネバーランド』は、その被害者とされる2人の男性(ロブソンはその1人だ)とその家族の20年間をたどった 映画で、アメリカでは3月初旬にケーブルテレビ局HBOで放送された。
ジャクソンの熱烈なファンの間では、キング・オブ・ポップの伝説を汚すものだと評され、1月のサンダンス映画祭では、上映を阻止しようとする運動も起きた。だが、実際に上映されると、その圧倒的な説得力に、会場はスタンディングオベーションに包まれたという。
確固たる証拠はないが
映画はあくまで被害者の人生に焦点を絞っており、ジャクソンがなぜそんなことをしたのかについて、理由や背景を説明しようとはしていない。
だが、ジャクソンが幼少の頃から芸能活動に追われて「子供らしい生活」を送れなかったことや、父親のジョーから心身共に傷つけられていた(らしい) ことは、ファンでなくともよく知られている。そしてそれが、後のエキセントリックな行動につながったのだという説明が、まことしやかになされてきた。
つまりジャクソンは、自分が子供のときに虐待されていたから、大人になったときに子供を(性的に)虐待してしまったというのだ。ロブソンの妻が夫にした質問は、この「虐待は世代を超えて連鎖する」という思い込みの表れと言えるだろう。
この手の思い込み心理学は、今年1月にケーブルテレビ局ライフタイムで放送されたドキュメンタリー番組でも登場した。女性たちから性的虐待を告発され続けている大物R&B歌手で音楽プロデューサーのR・ケリーについて取り上げた『サバイ ビング・R・ケリー』だ。
この中では、ケリーが12年のインタビューで、7歳のときから家族による性的虐待を受けていたと語る映像が紹介されている。ケリーは「子供のとき教えられたことは、何であれ一生ついて回る」と話していた。
その後、臨床心理学者が出演してケリーの主張に同意する。性的虐待の被害者は、成長すると「自分が常に優位に立っていたいと思うものだ。そして性的関係においては、相手が子供であるときほど自分の優位を実感できることはない」というのだ。