英王室のお墨付き 「ポピンズでボンド」な教育のプロを輩出するノーランド・カレッジで教えられること
The “James Bond” Nanny
身だしなみの指導は厳しい(1971年) SILVIA KUSIDLOー PICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES
<護身術もサイバーセキュリティーも教えるイギリスの超一流「ナニー」養成学校の素顔とは>
ここはイギリス南西部の歴史ある街バース。ジョージアン様式の家々が並ぶ通りを、白い手袋にベージュのワンピース、Nの文字の付いたフェルト帽をかぶった若い女性たちがさっそうと歩いている。彼女たちは「ナニー(家庭で幼い子供の養育を担当する専門職)」を養成するノーランド・カレッジの学生だ。
英王室御用達のナニーたちがノーランドの卒業生なのは有名な話。ヘンリー王子夫妻の第1子誕生をきっかけに、この学校に再び注目が集まっている(もっとも夫妻が慣例どおり、ノーランドの卒業生を雇うかどうかは分からないが)。
創立から127年の同校では、裁縫や料理や栄養学といった昔ながらの教科に限らず、護身術やサイバーセキュリティー、運転中に自動車がスリップした際の制御法まで教えている。ジャネット・ローズ校長にとって、時代に即したカリキュラムは自慢の種だ。ローズに言わせれば、ノーランド出身のナニーはメリー・ポピンズであり、ジェームズ・ボンドでもある。
同校は4年制で、学生たちは学校で3年間の教育を受けたのち、実際の家庭での1年間の研修を経て一人前となる。授業やトレーニングは厳しく、学生は大忙しだ。少なくとも週に4日は一日中授業がある上、宿題や課外授業もある。実用的なスキルに加え、子供の立ち直る力やEQ(感情指数)を高めるとされる「感情コーチング」や、幼児期の脳の発達といった知識も身に付ける。
勤め始めたばかりの慣れない家庭で起こるさまざまな問題にどう対処すべきか、という授業も欠かせない。卒業すれば週に60時間勤務することもあれば、住み込みで働く可能性もある。
「生きていくなかで出合ういろいろな問題についての知識を学生に与えようと努めている。家庭内で働くプロとしての役割や、雇用主と一緒に暮らすことから生じがちな人間関係などの問題も含まれる」と、ローズは語る。だから年金についての講義もあれば、子供のしつけをめぐる意見対立といったテーマでの訓練もある。
国外でも引く手あまた
卒業生の多くはロンドンの富裕層の家庭で働くことになるが、国外、特に中国やアメリカ、中東でもノーランド卒業生への需 要は高いと、ローズは言う。国外での仕事では年収が10万ドルを超えるケースもある。イギリス国内で働く場合でもかなりの収入が期待でき、経験が浅くても年収が4万ドルに達する人も少な くないという。
卒業後、いい仕事に就ける可能性が高いことを考えれば、イギリスの学校としては高い学費も納得してもらえるだろうと、ローズは言う。同校の年間の学費は1万5000ポンド(約215万円)を超える。
昨年には2人の男子学生が3年の課程を終え、実地研修に入った。さまざまな背景を持つ学生が集まっていることも、多様な家庭からの需要に応えられる理由だと、ローズは言う。
1年生のニアブ・フィッシャーがノーランドを選んだ理由はシンプルだ。「最高(のナニー) になりたかった」