英王室のお墨付き 「ポピンズでボンド」な教育のプロを輩出するノーランド・カレッジで教えられること
The “James Bond” Nanny
授業は楽しく、なかでも特に好きなのは神経学だと、フィッシャーは言う。もっとも、慣れるのに時間がかかったものもあ る。例えば同校では、身なりをきちんと整えることが非常に重視されており、フィッシャーも赤毛を引っ詰めておだんごにし、 整髪料を使って後れ毛が出ないように整えている。
「ヘアスプレーなしだと、私の髪はくるくると巻いてしまう。後れ毛が出ないように押さえ付けて完璧なおだんごにしようと すると時間がかかって......。入学して初めてやったときは45分くらいかかった」
それも今では10分程度に短縮された。ただし、髪の毛の調子がいいときに限った話だ。
身だしなみに関してノーランドは軍隊式のアプローチを取っている。求められるのはきちんとまとめた髪に短く切った爪、しわ一つない制服。本誌がフィッシャーの姿を撮影した際も、学校側が制服をチェックし、なかなか言うことを聞かない襟はきっちり開かれ、外から見えないしわも伸ばされた。
フィッシャーは、身だしなみに対する厳しさは学校のイメージを守るだけでなく、自分の内面にとっても意味があると語る。 人目につくこの制服を着て、髪をきっちり結うことに誇りを感じているのだ。
保育職のレベル向上図る
2000年代初頭にノーランドで学び、今では同校で教鞭を執るエルスペス・ピットマンに言わせれば、身だしなみに関する厳しい指導は細部に注意を払うことの大切さを学生たちにたたき込む効果がある。「きっちり身に付く。それも訓練の一環だと思う」と、ピットマンは言う。「周囲の環境に目を配り、子供の安全を保ち、最良の環境を与えることは(ナニーにとって)とても大切なことだから」
多くの卒業生の例に漏れず、ピットマンもナニー一筋の人生を送ってきたわけではない。イギリス内外の家庭で働いた後、公営の保育園の保育士となり、ノーランドに戻ったのは12年のこと。卒業生の中には教師になる人もいれば、ベビー用品の会社を立ち上げた人もいる。
だがどこに腰を落ち着けるにせよ、卒業生と学校の絆が切れることはない。「私たちはノーランド出身のナニーであることに非常に強い誇りを持っている」と、ピットマンは言う。
ローズは、知識も技術も給料も高いノーランド出身のナニーたちが、保育に関わる仕事全般のレベルアップに寄与することを望んでいる。「世界のどこでも保育(の仕事)の社会的地位は非常に低く、ほとんど価値がないようにみられているように思う」
ノーランド出身者を雇える家庭が限られていることは、ローズも承知している。だがノーランドの高いサービスの質(とそれに見合った給与)へのこだわりが、保育業界全体に広がっていくことを彼女は期待している。
【参考記事】日本はなぜここまで教育にカネを使わないのか
※6月18日号(6月11日発売)は「名門・ジョージタウン大学:世界のエリートが学ぶ至高のリーダー論」特集。「全米最高の教授」の1人、サム・ポトリッキオが説く「勝ち残る指導者」の条件とは? 必読リーダー本16選、ポトリッキオ教授から日本人への提言も。
[2019年6月11日号掲載]