観光地化するチェルノブイリで自撮り 時の止まった廃墟に人が集まる理由
A Curious Tourist Site
自撮りスポットで人気の遊園地の観覧車 Gleb Garanich-REUTERS
<原発事故で廃墟と化した近隣の町が観光名所に。安全面の懸念とともに倫理的な問題を指摘する声も>
旧ソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリ原子力発電所で、大規模な爆発事故が起きたのは86年4月のこと。近隣の町や村には大量の放射性物質が降り注ぎ、全住民に避難命令が出た。以来33年間、周辺は「チェルノブイリ立入禁止区域」としてゴーストタウン化している。
ところが今、この地域がひそかな観光名所として人気になっているという。ウクライナ政府によると、17年に立入禁止区域を訪れた人は6万人以上。世界中から来た観光客が、ガイガーカウンターで放射線量を測定し、Tシャツやマグネットを買っていく。
もちろん安全面への配慮から、立入禁止区域へはガイドが一緒のツアーでなければ入れないし、出るときは被曝量を測定され、放射性物質を持ち出していないかチェックされる。
そうした対応が徹底されていることもあってか、観光客が安全面の不安を訴えることはほとんどない。
「被曝量は飛行機の長距離フライトで浴びる放射線量よりも少ないと言われた」と、ロシア系オーストラリア人のアレックス・シュリーは言う。「ガイドがガイガーカウンターを持っていて、行く先々で放射線量を調べて見せてくれる。だから安全について全く心配はなかった。ガイドも現地で働く人たちも元気そうだったし」
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フィンランドに住むユホ・ミッコネンは、4月に1週間の休暇を取ってウクライナにやって来た。首都キエフに滞在中にネットを調べていたところ、たまたまチェルノブイリ訪問が可能だと知り、ツアー参加を決めた。
「(大手旅行サイト) トリップアドバイザーで、『ウクライナで絶対外せない観光スポット』としてチェルノブイリの日帰りツアーが紹介されていた」と、ミッコ ネンは語る。「早速申し込んでみると、服装(短パンやサンダルなど肌の露出が多い服装は禁止)や食べ物について、簡単な注意事項がメールで送られてきた」
チェルノブイリに向かうバスの車内で、放射能についてさらに具体的な説明があった。「30分くらい説明を受けた。『座らない、カバンや上着を置かない、何かを拾ったり持ち出したりしない』などだ。絶対にやってはいけないのは、ドローンを飛ばすことだと言われた」
ソ連へのノスタルジーも
だが、どんなに注意事項が多くても、チェルノブイリを訪れる人が減る気配はない。あるイギリス人男性グループは、独身最後のバチェラーパーティーをチェルノブイリで開いた。昨年は近隣で音楽フェスティバルまで開かれたという。
イギリス人ジャーナリストのジュリー・マクドワルは、17年にチェルノブイリを訪れたとき、多くの観光客がゴミをポイ捨てしていく姿に憤慨したという。「ガイドがゴミを拾うけれど、そのゴミを立入禁止区域から持ち出すことはできないから、特別な処分が必要になる」