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観光地化するチェルノブイリで自撮り 時の止まった廃墟に人が集まる理由

A Curious Tourist Site

2019年06月04日(火)12時15分
クリスティナ・マザ

この地域を舞台にしたビデオゲームのファンがやって来ることも多い。その1人がソ連時代のレーダーシステム「ドゥーガ」のアンテナによじ登って自撮りをしようとして、死亡する事故も起きた。

だが、何といっても観光客に一番人気の自撮りスポットは、廃墟と化した遊園地の観覧車だ。「観光客同士が、自撮りのベストスポットを確保しようとして競争になることもあるらしい」とマクドワルは語る。

立入禁止区域を訪れるのは怖いもの見たさの外国人観光客ばかりではないと、オランダ人ジャーナリストのフランカ・フンメルスは指摘する。「チェルノブイリには旧ソ連諸国からも多くの観光客がやって来る。彼らの目的は、ソ連時代のノスタルジーに浸ることだ」

チェルノブイリ原発の作業員のために造られた町プリピャチは、「事故があった86年で時間が止まっている」と、フンメルスは語る。「だからここに来て、ソ連時代の建築や道路を見たり、『うちにもこういう模様のカーテンがあった』などと思い出に浸るのが楽しいのだ」

そんなチェルノブイリ観光に、倫理面から疑問を投げ掛ける声もある。イギリス人映像制作者のジュリエット・ジャックスは、キエフでの映画撮影のついでにチェルノブイリを訪れた。「めったにない経験ができると思って申し込んだが、予想外のショックを受けた」と語る。

「避難を余儀なくされた人たちの家に勝手に上がり込み、思い出の品を触ったり、あれこれ写真を撮ったりすることが倫理的に正しいのか疑問に思えてきた」と、彼女は言う。「プリピャチの病院にも行った。今は廃墟だが、事故直後は悲惨な状況だったに違いない」

プリピャチの住民は事故の翌日、3日分の食料と身の回りの品を持って集まるよう指示を受けたという。だが、避難命令が解除されることはなく、ほとんどの住民はそのまま別の土地に移住することになった。

【参考記事】チェルノブイリ原発事故で最大の被害をもたらしたのは放射能ではない

イデオロギー的な思惑?

さらにジャックスは、プリピャチが当時のままに保存されている背景には、イデオロギー的意味合いもあるのではないかと指摘する。「チェルノブイリの入り口には、ソ連時代の看板や、共産党のロゴ、レーニン像といったものが残っている」

「それは観光客を喜ばせると同時に、イデオロギー的な警告の役割も果たす」。前代未聞の原発事故を引き起こし、近隣住民を強制的に移住させ、後には廃墟が残された──それがソ連というプロジェクトの行き着く先だと、訪れる人々に警告しているというのだ。

チェルノブイリに来て、ソ連時代のノスタルジーに浸るのもいいし、放射線まみれの土地を少しばかり訪れるスリルを味わうのもいいかもしれない。だが、その中核には、全体主義が引き起こした歴史的悲劇があることを忘れてはならない。


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※6月11日号(6月4日発売)は「天安門事件30年:変わる中国、消せない記憶」特集。人民解放軍が人民を虐殺した悪夢から30年。アメリカに迫る大国となった中国は、これからどこへ向かうのか。独裁中国を待つ「落とし穴」をレポートする。

[2019年6月 4日号掲載]

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