『ヘドウィグ』がポッドキャストで復活 ラジオ小説のようなロックオペラがアツい
A Game-Changing Podcast Musical
(左から)グレン・クローズ、ジョン・キャメロン・ミッチェル、パティ・ルポーン ARTWORK COURTESY TOPIC STUDIOS
<成長著しい「ネットラジオ」の新トレンドは心を揺さぶるミュージカル>
スマートフォン向けラジオとも呼ぶべきポッドキャストの成長が著しい。約15年前に登場したばかりの頃は、誰でも作れる音声ブログのような存在だったが、最近は大手メディアの主要ニュース紹介番組があったり、著名起業家のインタビューシリーズがあったりと、凝ったコンテンツが増えている。
そんななか、4月に公開されたポッドキャスト版ミュージカル『アンセム:ホムンクルス』が注目を集めている。ミュージカルといっても映像はないから、連続ラジオ小説の随所随所に凝った楽曲が挿入されているというイメージだ。
ポッドキャストのミュージカルはこれまでにもあった。ただ、『ホムンクルス』は、98年にオフブロードウェイで初演されて以来、カルト的人気を集めたミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』を下敷きにしているのが大きな特徴だ(ただし続編ではない)。
『ヘドウィグ』は、東ドイツ出身のトランスジェンダー歌手ヘドウィグが、愛した(そして自分を裏切った)男を追って全米をツアーする物語。そのキテレツな展開と、グラムロック調のビジュアルとサウンドが絶妙な魅力となって、舞台は熱狂的なファンを獲得。ロングランを記録し、映画化もされた。
『ホムンクルス』は、その『ヘドウィグ』のミュージカルと映画の両方で主演・脚本を務めたジョン・キャメロン・ミッチェルが主演・脚本・演出を担当。そのおかげか、6人ものトニー賞受賞者が出演してミュージカルナンバーを披露する豪華なロックオペラに仕上がっている(編集部注:このポッドキャストを聴くためのアプリ「ルミナリ」はまだ日本で提供されていないため、原則的には日本で聴くことはできない)。
アメリカ社会への批判も
カンザスに住む主人公キーアン(ミッチェル)は脳腫瘍を患っているが、無保険のため治療を受けられない。そこで自分の人生を語り、クラウドファンディングで手術費を集めることにする。
発信場所は自宅のトレーラーハウスだが、そこに近隣住民や親戚が訪ねてきたり、キーアンの回想が挿入されたりして、物語は進行していく。第1シーズンは全10話で、計31曲が使われることになっている。
例えば、大女優パティ・ルポーンは、キーアンのおばの尼僧を演じ、迫力のあるジャズナンバーを聞かせる。映画女優としても活躍するグレン・クローズは、ワイルドなロックナンバーを歌い上げる。ローリー・アンダーソンは脳腫瘍そのものの役で、キーアンのために愛のバラードを歌うといった具合だ。
『ホムンクルス』はキーアンの個人的な物語のようでありながら、アメリカのいびつな医療保険制度や、彼が子供の頃にカトリック教会の司祭にレイプされた経験、さらには愛する人をエイズで失う苦悩を織り込むなど、現代社会の問題にさりげなく触れることを忘れていない。