「生まれ変われるなら、精神科医に」遅咲きのヒロイン、レイ・シーホーンの素顔
Better Call Kim
仕事の鬼のようなキムだが、口先だけのダメ男ジミーをけなげに支える情愛深い一面も NICOLE WILDERーAMCーSONY PICTURES TELEVISION
<「業界きってのポーカーフェース」と大物プロデューサーが折り紙を付けたレイ・シーホーンの大人の魅力>
ケーブルテレビのAMCで放映され、話題をさらった連続ドラマ『ブレイキング・バッド』。そのスピンオフ作品で、悪徳弁護士ソウル・グッドマンの前日譚が『ベター・コール・ソウル』だ。そのパイロット版で、レイ・シーホーンのせりふはわずか2行しかなかった。
彼女が最初に登場する場面は、法律事務所ハムリン・ハムリン&マッギル(HHM)の会議室。ボブ・オデンカーク演じるジミー・マッギル(ソウル・グッドマンはこの時点では本名のジミー・マッギルで活動している)が勢い込んで入ってくると、映画『ネットワーク』でネッド・ベイティが言った有名なせりふを叫ぶ。「きみらは原初的な自然の力を妨害する気か。許さんぞ!」
シーホーン演じる弁護士のキム・ウェクスラーは一言も発せず、ただあきれ顔でジミーを見るだけ。視聴者がかろうじて彼女の存在に目を留めるのはその場の紅一点だからにすぎない。
会議は決裂し、駐車場に下りたジミーは怒りに任せてゴミ缶を蹴飛ばす。カメラは駐車場の壁にもたれているキムの顔にパン。ジミーは彼女に近寄り、彼女がくわえているたばこを取り上げて一服吸うと、また彼女の口に戻し、仲介役になって話をまとめてほしいと頼む。
「それは無理よ、ジミー」。彼女は冷たく言うと、たばこを投げ捨ててエレベーターに向かう。ついでに転がったゴミ缶を立ててふたをする。
そう、これが回を重ねるうちにじんわり効いてくるこのドラマのマジックだ。ジミーは何とも憎めないダメ男。キムは彼が起こすトラブルの後始末を淡々とこなすクールな相棒だ。
素顔は気さくでオープン
シーズン1、そして2の途中まで、キムはジミーの暴走を抑える良識派の相棒とみられていた。だがその後の展開で、彼女もなかなか食えない女だと分かってくる。
「時にはジミーと共犯関係にもなる」と、番組プロデューサーのピーター・グールドは言う。
「彼女を良識派と呼ぶのはちょっと違うと思う」
共同プロデューサーで、『ブレイキング・バッド』の生みの親でもあるビンス・ギリガンは初めてパイロット版を見たとき、シーホーンの演技に舌を巻いたという。一つ一つの場面にほんの少しだけ陰影を与えるしぐさや表情が心憎い。グールドに言わせると、シーホーンの強みは「業界きってのポーカーフェース」だ。