「神様、どうか力を下さい」──アメリカに奪われた8歳の息子を私が取り戻すまで
‘I WENT TO GET HIS SHOES, AND HE WAS GONE’
米政府も自国政府もオルティスと息子の再会の手助けしてくれなかった DANIELE VOLPE
<トランプの「不寛容政策」で多くの親子が引き裂かれた――グアテマラ人女性が8歳の息子と再会するまでの苦難の物語>
中米グアテマラの空の下、エルサ・ホアナ・オルティス・エンリケスはアメリカでの新生活を夢見ながらも、しっかり腹をくくっていた。
この先の旅は大変だぞ、8歳の息子アントニーを連れ、7日がかりでメキシコを抜け、アメリカ側に入ったら国境警備隊に出頭し、野犬収容所(不法移民は収容施設をこう呼ぶ)に閉じ込められて......。「そこで何カ月間も待たされるだろうけれど、最終的にはバージニアまで行けると思っていた」とオルティスは言う。
しかし今年5月、母子がテキサス州マッカレンにたどり着いた24時間後、その想像は違うものになった。移民局の職員が施設にやって来て、息子を連れ去ったのだ。「あっという間の出来事だった。あの子の靴を取りに行って戻ったら、もう姿が消えていた」
その後、オルティスは不法入国容疑で刑事罰に問われると説明された。「新しい法律で、私の裁判中は息子と離す必要があると言われた。でも、すぐに返してくれると」
それから10日後、オルティスは手錠と足かせをつけられた。「どこに連れていくの?」と係員に問うと、答えは「帰国するためのバスに乗せる」。つまりグアテマラへ逆戻り。もちろん息子も一緒だろう、と彼女は思った。
本国に送還される女たちを満載したバスはテキサス州のラレド国際空港に向けてひた走り、明け方に到着した。飛行機に乗り込む人々の列に目をこらしても息子の姿はない。吐き気がした。
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バスの中で退去処分に同意する書類に署名し、それから飛行機に向かう段取りだった。しかしオルティスは座席にしがみついて泣いた。「署名するわよ、息子を連れてきてくれたら」
オルティスは署名を拒んだが、足かせをはめたまま無理やりバスから降ろされた。機内では最前列に座らされ、2時間半後にグアテマラの空軍基地に到着。息子を奪われたと現地の係官に訴えても、誰も取り合わない。
やがてサンドイッチとジュースを渡され、電話をかけることが許された。彼女は父親に連絡した。それから指紋を採られ、基地の外の交差点近くに置き去りにされた。国を離れたときに着ていたグレーのパーカーとジーンズという格好で、父の到着を待つ。ああ、息子に再び会えるのだろうか?
トランプ米政権が2018年4月に導入した不法移民への「ゼロ・トレランス(寛容ゼロ)政策」によって、その後3カ月で2500人以上の5~17歳の子供が親から引き離された。これまでの政権は親子を一緒に収容したり、裁判まで釈放したりしていたが、トランプ政権は原則として不法移民を刑事訴追し、収監すると決めた。つまり親は逮捕し、刑事裁判の対象にできない子供の処遇は保健福祉省の難民再定住室(本来は単身で入国した未成年者を扱う部門)に委ねるということだ。
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これが不法移民減らしの決定打になるとトランプ政権は主張したが、世論の猛反発に遭って、6月には親子引き離し政策を撤回した。サンディエゴ連邦地方裁判所は、離散した家族を7月末までに再会させるよう命じた。
しかしオルティスの場合のように、親だけが先に強制送還されてしまったケース(強制送還に同意すればすぐにわが子を取り戻せると勘違いして署名した人もいる)では再会も難しい。
グアテマラに送還されてきた不法移民たち CARLOS BARRIAーREUTERS