愛犬はチェルノブイリ出身──原発事故で置き去りにされたペットの子孫を里親へ
Meet the Dogs of Chernobyl
「奇形」は見たことがない
ムソーは2000年代から、放射能がチェルノブイリの自然に与える影響を研究しており、現在は動物のDNA破壊を調べるために野良犬たちを調べている。これまでのところ、ほとんどの犬は立入禁止区域の中でも汚染レベルが比較的低い場所に生息していることが分かった。
中には、食べ物と一緒に放射性物質セシウム137の粒子をわずかながら摂取している犬もいる。だが、放射性物質の混ざっていないエサを数週間あるいは長くても数カ月与え続ければ、代謝されて体外に排出されると、ジョージア大学のジェームズ・ビーズリー准教授(野生生物生態系・管理)は指摘する。
立入禁止区域に生息する動物の一部は、低レベルの被曝により放射線耐性を獲得している可能性がある。ただ、これまでにそれが確認されたのはバクテリアだけだとムソーは言う。
また、里親プログラムの対象になる犬は皆、避妊または去勢手術を受けているため、アメリカに移住した後にその遺伝子が受け継がれる可能性はないと、ムソーは断言する。「ほとんどの犬は放射能を浴びたようには全く見えない。これはちょっとした驚きだ。頭が2つある犬といった奇形や大きな遺伝子異常は見たことがない」
チワワはいないけれど
立入禁止区域に生息する動物の全てがこうではない。ムソーは、くちばしに腫瘍がある鳥や、生殖能力のないネズミ類を見たことがある。クモの生息数も減ったし、ほとんど姿を消してしまった鳥もいる。
ところが犬の数は増えている。しかも驚きなのは非常に健康なことだと、ムソーは言う。チェルノブイリの犬の特徴は、大きくて垂れ下がった耳と、筋肉質のがっちりした体だ。「自然淘汰を勝ち抜いた種は、より強くてタフだ。この区域にマルチーズやチワワはいないだろう?」と、ヒクソンは言う。
ヒクソンは、13年に専門家交流プログラムのボランティアとして初めてチェルノブイリを訪れた。そのとき路上をうろつく野良犬の数に驚いたという。その犬たちと地元住民の温かさにほれ込み、16年にパートナーのエリック・カンバリアンとCFFを設立。ドッグシェルターと動物病院を造って、野良犬たちの保護に当たっている。
クリーン・フューチャーズ。基金では専門家が犬たちの不妊手術やワクチン接種を行っている SEAN GALLUP/GETTY IMAGES
今年に入り、ヒクソン自身もチェルノブイリから子犬を引き取った。CFFのチームが保護・治療した犬の第2号だったので、ロシア語で2を意味する「ドゥバ」と名付けた。「本当に美しくて、好奇心の強い子犬だ」とヒクソンは言う。「すっかり心を奪われてしまった」
CFFは当初、ドゥバを保護して不妊手術をした後、立入禁止区域に戻そうとした。だが、何度放しても、ドゥバはクリニックに戻ってきてしまった。「手術室に座って、獣医たちの仕事をじっと見つめている」と、ヒクソンは言う。「まるで私たちがちゃんと仕事をしているかチェックしているみたいに」
ドゥバは今、シカゴ郊外のヒクソンの両親の家に住んでいる。「動物は、人間に重要な影響を与える。実際にペットを飼うまで、動物が自分にとってどんなに重要な存在になるか想像するのは難しいと思う。驚くような共生関係が構築される」と、ヒクソンは言う。
「チェルノブイリの子犬たちも、普通の犬と何ら変わらない。注目されるのが大好きで、愛を必要としているんだ」
【参考記事】キモかわいい! 「人間」すぎる人面犬にネットが大騒ぎ
[2018年9月25日号掲載]