愛犬はチェルノブイリ出身──原発事故で置き去りにされたペットの子孫を里親へ
Meet the Dogs of Chernobyl
「この犬たちは原発事故とは何の関係もない被害者だ。だから生活の質を改善し、よりよい未来を持てるよう、できることは何でもするつもりだ」と、ヒクソンは言う。
1986年4月にチェルノブイリ原子力発電所の4号炉で爆発が起きたとき、近隣の町プリピャチでは、住民5万人に緊急避難命令が出た。状況がよく分からなかった住民の多くは、すぐに戻ってこられると思ってペットを置いていった。だがそのほとんどは、二度と町に戻ることはなかった。
現在チェルノブイリをうろつく犬は、このとき置き去りにされたペットの子孫と考えられている。CFFによると、その数は現在1000頭に迫る勢いだ。「犬好きな人は、チェルノブイリに来てほしい。きっと気に入るはずだ」と、9カ月前から原発処理業務の監督を務めるティム・モロハンは言う。
毎朝、モロハンがチェルノブイリの駅に到着すると、何匹もの子犬が跳びはねて寄ってくる。「コーヒーを飲まないと一日が始まらないと言う人は多いが、私の場合、犬とじゃれ合わないと一日が始まらない」と、彼は笑う。「チェルノブイリの犬を故郷に連れて帰れたら最高なのにと、いつも同僚たちと話していた」
子犬の保護活動に従事するボランティア SEAN GALLUP/GETTY IMAGES
だからフェイスブックで「犬の里親募集」という記事を見つけたとき、モロハンはすぐに米ジョージア州にいる妻に電話した。事情を説明すると、妻はモロハンが帰国する際に、チェルノブイリの子犬を1匹引き取ってもいいと言ってくれた。
そこでこの7月、モロハンは生後3カ月の子犬フレディーを連れてジョージアに帰ってきた。フレディーは白い体に黒ブチが入った元気な子犬で、事故のあった4号炉から100メートル足らずの所にある機材小屋で、母犬と共に保護された。
CFFに保護されて里親に引き取られる犬たちは、体毛に放射性ちりが紛れていたりしないように、飛行機に乗る前に徹底的な洗浄を受ける。さらに1カ月にわたりさまざまな検疫を受けて、健康証明書を発行してもらう。「体内被曝の検査も受けて、引き取り先の家庭に大きな危険をもたらさないという証明書が発行される」と、サウスカロライナ大学のティム・ムソー教授(生物学)は語る。