真っ裸の水遊びに学校公認の火遊び......アメリカ人も羨む「アリエナイ」だらけのドイツ式子育て
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ドイツ式子育てはアメリカ人の常識ではあり得ないことだらけ(写真はイメージ) undefined undefined-iStock
「学校公認」の火遊びも
ザスクは夫の仕事の関係で、首都ベルリン郊外の小さな町に一家で移り住んだ。著書ではドイツ到着からほぼ時系列に沿って子育て体験がつづられている。
一家はその後、活気に満ちたベルリン市内に転居。ザスクはフルタイムで働いていたわけではないが、友達の勧めでソフィアをKITAに入れ、ドイツ式子育ての洗礼を受けることになった。さらにはドイツ式に助産師の介助で、第2子のオジーを自宅出産する。
ソフィアが小学校に上がり、やがて一家がアメリカに帰るまで、ザスクはデータを織り交ぜつつ、ベルリン滞在中のさまざまなエピソードを紹介する。それを通じて、ドイツ式子育てがアメリカ式に比べ、いかに人間味にあふれ、子供を尊重する方式であるかを示していく。
小学校低学年の子が独りで歩いて学校に行くこと、遊び場にわざと危ない障壁が設けてあること、学校公認の火遊びができること......。アメリカ人の常識ではあり得ないことだらけだが、ベルリンの子供たちは実に楽しそうだ。
各章ごとにザスクはドイツ式を参考にして、アメリカの親や政府ができる改善策を提案している。しかしアメリカの親が常に子供を車で送迎する理由を考えると、現実にはドイツ式子育てを取り入れるには革命でも起こすしかなさそうだ。
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自転車で娘を送迎したら
例えば、ソフィアが小学校に上がったとき、ザスクは子供を車で送迎しないよう学校に注意される。これにはアメリカ人は耳を疑うだろう。今のアメリカでは(ニューヨークは別として)、大都市であっても車の送迎は当たり前。どこの学校でも、登下校時には校門前に車の長い列ができる。
筆者はこの慣行に逆らって、自宅から7キロほど離れた幼稚園まで娘を自転車で送って行ったことがある。結果、幼稚園前にずらりと並んだ車の窓から、よそのママたちに「邪魔よ」とさんざん怒鳴られた。徒歩で送迎する親もわずかながらいるが、これに対しては幼稚園側から保護者全員に宛てて、くれぐれも車の列を妨害しないようにと厳しい警告メールが送られてきた。
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アメリカでは、子供を独りで遊びに行かせた親は逮捕されかねない。子供は親同士が時間や場所を約束した「プレイデート」で友達と遊ぶしかない。事故が起きれば訴訟になるため、公園は安全第一で設計されていて面白みに欠ける。どのみち、子供が公園で遊ぶには親が車で送迎しなければならない。
こうした状況を変えるには、人々の意識が変わる必要があるし、政府も予算を割かねばならず、いずれも近い将来には実現しそうにない。筆者の自転車送迎がむなしい抵抗に終わったように、個々の親にできることは限られている。第一、仕事に疲れ果て、日々の車送迎に追われるアメリカの親たちは、何かを変える気力すらない。
(c)2018 The Slate Group
[2018年3月20日号掲載]
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