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ペット現代の犬に服は必要 NYを闊歩する「ファッショナブルな愛玩動物」のジレンマ
A Begrudging Defense of Dog Clothes
フレンチブルドッグの子犬にはデニムのオーバーオールがお似合い MAIKA 777-MOMENT/GETTY IMAGES
<ドッグウエアは飼い主の自己満足と思われがちだが、生存能力の低下した現代の犬の健康を守る役目もある>
冬の夜ニューヨークの街を歩くと、不思議の国に迷い込んだよう。キラキラ輝く通りや木々。歩道の雪もオレンジ色に光っている。ある日アップタウンを歩いていると、散歩中のピットブルを見掛けた。辺りににらみを利かせながら凍った道を堂々と歩いていくが、その首にはフリンジの付いたマフラーが......。
同じ界隈でダウンジャケットを着た犬や黄色いレインコートにおそろいの長靴で決めた犬、さらにはオフタートルのニットでめかし込んだ犬まで見掛けた。
これらは明らかにお金持ちの飼い主が自分のセンスで選んだウエアだ。ただ、多くの愛犬家に言わせると、服を着せるのは飼い主の自己満足のためだけではない。一番の目的は大事な愛犬の健康を守ることだ。
そう聞いて「えっ?」と思った人は多いはず。自前の毛皮を持つ犬に服を着せる必要があるのか。犬の祖先であるオオカミは極寒の北極圏でも酷暑の砂漠でもサバイバルできる適応力の高い動物だ。
とはいえ、犬種によってはほとんど毛がないし、遺伝的にミスマッチな環境に連れてこられた犬がいるのもまた事実だ。
オオカミが人間に飼いならされたのは3万〜1万年前。その後、長い時間をかけて性質は穏やかになり、ついには「人間の最良の友」となった。
それには代償が伴った。何世代もの人為的な交配を重ねて、強くたくましいオオカミは姿形もさまざまな愛らしいペットに変身したが、その過程で生存能力は大幅に低下したのだ。
シベリアンハスキーやサモエドはふさふさの毛皮のおかげで極寒に耐えられる。だがアフリカ原産のヘアレス(無毛)犬の血を引くと言われるチャイニーズクレステッドのように、胴体は裸同然で、頭部や足だけに毛がある奇妙でか弱い犬もいる。そんな犬も飼い主の暮らす寒い街でけなげにも尻尾を振って散歩に出掛ける。
化学物質から守る役目も
愛犬家団体アメリカン・ケネルクラブによれば、犬の体温は犬種を問わずほぼ同じで38〜39度だ。シベリアンハスキーがニューヨークで夏にこの体温を保つには、水を多めに与え、エアコンの利いた屋内に入れるなど、飼い主の気配りが必要になる。逆にチャイニーズクレステッドは防寒対策が欠かせない。
大半の犬種は気温0度までなら、短時間の散歩は大丈夫。だが氷点下になると、毛が薄い小型犬は(特に体がぬれるか長時間屋外にいると)、低体温症や凍傷になるリスクがある。
犬種によって、とりわけ子犬は冬の散歩には服を着せるほうがいいと専門家は言う。免疫力が低下した老犬や毛が抜ける病気などをした犬の場合、屋内でも布でくるむ必要がある。
靴を履かせたほうがいい場合もある。地域によっては凍結防止のために道路に工業用の塩が散布されているからだ。凍結防止剤で足が乾燥したり、ただれたりすることがあるし、散歩から帰った犬が足をなめると化学物質が体内に入る。有害かどうかははっきりしないが、避けたほうが無難だろう。
飼い主の趣味で犬に服を着せることには抵抗も感じるが、防寒対策の必要性に科学的根拠があることは認めざるを得ない。
それでもニューヨークの犬たちを見ていると嘆息せずにはいられない。かつては過酷な環境にもしぶとく適応する誇り高き野生動物だった犬。人間に飼いならされてさまざまな姿形に変えられた今、彼らはただのファッショナブルな愛玩動物だ。
(c)2018 The Slate Group
[2018年2月20日号掲載]
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