最新記事

インタビュー

世界が絶賛するソリスト、田中彩子に学ぶ「世界で輝く」秘訣

2018年08月27日(月)17時20分
西川彩奈(フランス在住ジャーナリスト)

ウィーン在住、コロラトゥーラ・ソプラノ歌手の田中彩子氏 Photo:J-Two

<「人生の中でそう聴けることのない素晴らしい声」と称賛を受ける、ウィーン在住コロラトゥーラ・ソプラノ歌手の田中彩子氏。10代から「音楽の都」で闘ってきた彼女に、「世界で勝つ」ための秘訣を聞いた>

8月下旬のパリ、ルーブル美術館の敷地内で開催されたコンサート。プレゼンターを務めた作家、辻仁成氏に「本当に素晴らしい声の持ち主」と紹介されて登場したのが、オーストリア・ウィーン在住のコロラトゥーラ・ソプラノ歌手の田中彩子氏だ。コロラトゥーラとは、一般的なソプラノと比べると楽器のような音色や鳥の鳴き声に近く、高音域を得意とする種類の声のこと。そんな彼女の華麗な歌声がルーブルの一室で響き渡り、観客からは厚い拍手が沸き起こった。今回「ニューズウィーク日本版 for WOMAN」は、パリで田中氏に話を伺った。

歌の技術がほぼゼロの状態からクラシック音楽の都ウィーンに単身渡り、精神的にも金銭的にも厳しい状況を乗り越え、栄光を掴んだ彼女の道のりとは?

歌を始めたきっかけは「不幸中の幸い」

田中彩子は、ピアニストを目指し3歳から練習を続けてきた。しかし、若くして方向転換を強いられる。高校時代に、手が小さく一オクターブに届かず、ピアノの道を諦めることになったのだ。音楽以外の道を考えられなかった田中が選んだのが、楽器がなくてもすぐに試せる「歌」だった。不幸中の幸い、歌の先生に「高い音まで出せる珍しい声」と褒められ、そのまま歌の道に進んだ。

その半年後、先生の誘いで音大生に混じり、ついて行った研修旅行先のウィーンにて現地オペラ歌手のレッスンを受けた際に「本気でヨーロッパでオペラ歌手になりたいのなら、今すぐウィーンに来なさい。あなたにはその可能性がある」と留学を薦められる。導かれるように田中はウィーンに渡った。

ウィーンに着くと、目から見える情景、音、空気――、クラシック音楽を生んだ風景を目の当たりにし、受けた衝撃は今でも忘れられないという。

ウィーンで感じた「どん底」と、成功


圧巻の歌声に、客席はスタンディングオベーションで喝采が


こうしてウィーンで生活を始めた田中は、日々レッスンを重ねていた。しかし、すべてが新鮮だった2、3年目が過ぎ、4年目に差し掛かった頃、「どん底」に陥ったという。

「今までで、一番不安定な時期でした。日本の友達はみんな就職していくなか、自分は紙に書けるものが何もないという焦燥感。今まで4年間ウィーンでやってきたことは、目に見える成果がない。両親には4年間だけ金銭面でサポートを受けていたけれど、それが終わったら、自分は今、ウィーンで生きていけるのだろうかという不安。ビザにおいても、許可がなければ自分はここにいられない存在という事実を、排他的に感じてしまって。ホームシックも重なり、精神的に疲労困憊していました」

精神と声は直結している。時を同じくして、欧州で闘っていく上で田中の唯一の武器であった、高い声が出なくなってしまった。

そこで田中は、小さな頃に見た「魔女の宅急便」のある一場面を思い出した。魔女として一番の特技である「飛ぶこと」ができなくなった主人公キキが、飛ぶことをやめたシーンだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国の尹政権、補正予算を来年初めに検討 消費・成長

ビジネス

トランプ氏の関税・減税政策、評価は詳細判明後=IM

ビジネス

中国アリババ、国内外EC事業を単一部門に統合 競争

ビジネス

嶋田元経産次官、ラピダスの特別参与就任は事実=武藤
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…

  • 2

    【ヨルダン王室】世界がうっとり、ラジワ皇太子妃の…

  • 3

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 4

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 5

    アジア系男性は「恋愛の序列の最下層」──リアルもオ…

  • 1

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 2

    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…

  • 3

    キャサリン妃が「涙ぐむ姿」が話題に...今年初めて「…

  • 4

    アジア系男性は「恋愛の序列の最下層」──リアルもオ…

  • 5

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 1

    「家族は見た目も、心も冷たい」と語る、ヘンリー王…

  • 2

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が出産後初めて公の場へ...…

  • 4

    カミラ王妃はなぜ、いきなり泣き出したのか?...「笑…

  • 5

    キャサリン妃が「大胆な質問」に爆笑する姿が話題に.…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:超解説 トランプ2.0

特集:超解説 トランプ2.0

2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること