最新記事

米大統領選

「台風の目」トランプの意外な実力

大富豪のキワモノ候補のはずが、今や支持率首位。白人ブルーカラー層を引き付ける人気の構図を読み解く

2015年8月19日(水)17時30分
マシュー・クーパー

言いたい放題 過激な発言が白人低所得層の支持を集めるトランプ Jonathan Alcom-REUTERS

 あの「トランプ節」が全開──6月16日、不動産王のドナルド・トランプ(69)が、満場の支持者とサクラたちの前で、次期米大統領選の共和党候補の指名争いに名乗りを上げた。

 出馬表明を行ったのは、ニューヨークのマンハッタンにそびえ立つトランプ・タワー。モデル出身の妻メラニアと共に、エスカレーターに乗って舞台に降りてきたトランプは、おなじみの俺様発言を繰り出した。「私は、神が生み出した最も偉大な『雇用創出大統領』になる」

 自らが論点に据える貿易問題について、挑発モードで語ることも忘れなかった。「貿易協定で、アメリカが最後に中国に勝ったのはいつか? 私は常に中国をたたきのめしてきた」

 異常なまでの自信と、無理があり過ぎる髪形。そんなトランプを、演出上手の目立ちたがり屋と切り捨てるのは簡単だ。しかし大言壮語で知られるこの大富豪が、大統領選の行方を左右することになるかもしれない。

 何といっても、トランプにはカネがある。本人が公表したところによれば、純資産額は87億ドル。実際の金額はそれ以下だとしても、選挙戦をかき乱すための資金は十分ある。巨額を投じてネガティブ・キャンペーンでほかの候補の足を引っ張る一方で、自身の主張を売り込める。

 今やトランプは、17人が争う共和党の候補指名レースで支持率トップ。今月6日に行われる同党の第1回候補者討論会に登場するのは間違いない。

共和党に起きた大変化

 FOXニュースが主催する第1回討論会には、直近の世論調査5回の平均支持率の上位10人だけが参加できる。リック・ペリー前テキサス州知事らはトランプ人気で存在感がかすみ、討論会に出席できそうにない。

 論戦相手となる9人の候補者も、トランプお得意の「負け犬」呼ばわりにはひるむだろう。彼らに逆襲されても、トランプは痛くもかゆくもない。自己中心的だ、間違っている、という批判は聞き慣れているからだ。

 だがトランプが台風の目になる最大の理由は、共和党に訪れた大きな変化と関係がある。それは、共和党を支持する白人労働者層の急増だ。

 アメリカでは製造業の雇用者数が減少し、白人のブルーカラー労働者に打撃を与えている。失業の危機に直面する彼らは、トランプが掲げる「反自由貿易」論に魅力を感じやすい。

 白人ブルーカラー層の民主党離れは今に始まった話ではないが、近年その勢いは増している。

 彼らが、従来の支持政党である民主党を見限り始めたのは60年代後半のこと。80年代には、多くが共和党のロナルド・レーガン大統領支持に転じ、民主党との溝が広がった。90年代に民主党離れに歯止めがかかったのは、ビル・クリントン大統領が福祉改革や犯罪対策強化など、保守派寄りの政策を打ち出したおかげだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪肝に対する見方を変えてしまう新習慣とは
  • 3
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず出版すべき本である
  • 4
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 5
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 8
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 9
    ロシア軍が従来にない大規模攻撃を実施も、「精密爆…
  • 10
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 9
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中