最新記事

米大統領選

「台風の目」トランプの意外な実力

2015年8月19日(水)17時30分
マシュー・クーパー

 00年以降は、銃規制や石炭火力発電所への規制が引き金となり、民主党を見捨てる白人労働者層が増えている。非大卒の白人有権者のうち、12年の大統領選でバラク・オバマを支持した人の割合はわずか33%、昨年の中間選挙で共和党候補者を支持した人は64%に上った。

「彼らは文化的にも経済的にも疎外されている存在だ」と、政治アナリストのロナルド・ブラウンスティーンは指摘する。

 共和党支持に転じたブルーカラー層は、従来の共和党支持者よりも自由貿易に対して懐疑的だ。この事実が共和党を変化させている。

 ピュー・リサーチセンターが5月に実施した調査によると、自由貿易協定は自分の雇用を奪うものだと考えている人は、民主党支持者よりも共和党支持者に多かった。これはトランプには好都合だ。共和党の主要候補は、おおむね自由貿易を支持しているからだ。

 TPP(環太平洋経済連携協定)の交渉に関連して、米議会は6月末、大統領貿易促進権限法案を可決した。これで米政府がTPP参加国と交渉して妥結した内容は、議会で一括して批准されることになる。つまり同法案に賛成したということは、事実上の自由貿易協定の容認だ。

 共和党の大統領候補指名に名乗りを上げているマルコ・ルビオ上院議員は、同法案に賛成票を投じた。現在、各種調査で支持率2位の座を争うジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事と、ウィスコンシン州知事スコット・ウォーカーも法案を支持した。こうなるとますますトランプの反対が目立ってくる。

 低学歴の白人ブルーカラー層は、当然ながらメディケア(高齢者医療保険制度)や公的年金の縮小に反対だ。この点でもトランプは、共和党支持者の多くと同じように、社会保障の縮小に反対する姿勢を示している。

 ただ、トランプの主張には共和党支持者に受けが悪そうなものもある。例えば増税だ。

かなり善戦する可能性も

 トランプは、アメリカと公平に競争していない(と彼が考える)国からの輸入品の関税率を引き上げるべきだと繰り返し主張してきた。なかでもターゲットになっているのがメキシコだ。

 トランプは6月の出馬宣言で、フォードのメキシコ工場で生産された車には35%の関税をかけると公約。そうすればフォードは、メキシコ工場で生産していた車をアメリカの工場で生産するようになり、アメリカは雇用を取り戻せるというのだ。

 もちろん関税の引き上げは、所得税のそれとは違う(所得税の増税については、トランプを含む共和党の全候補が反対している)。だが、共和党は伝統的に増税に反対してきた。それだけに、たとえ関税でも「増税」という言葉へのアレルギーが、トランプ支持を鈍らせる可能性がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 10
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中