クルド要衝を「放棄」するオバマのばかげた理屈
遅きに失した空爆指令
こうした空爆の目的は、明らかにコバニで起きている事態にも当てはまる。数十万人のクルド人、キリスト教徒、さらにはスンニ派の住民などが、ISISの残虐な支配から逃れてコバニに入り込んでいた。そのコバニからの大脱出は既に最大級の難民危機になっているとも警告されている。
コバニが陥落すれば、市内に残った人々はどうなるか。ISISは大量処刑やレイプ・拷問など、今までに行ってきた以上に残虐な扱いをするだろう。そうした事態を予測して、国連幹部ですらコバニ防衛のための武力行使を呼び掛けているほどだ。
人道的な理由のほかにも、アメリカがコバニを守るべき客観的な戦略上の理由がある。ISISがコバニを押さえれば、シリアとトルコの国境付近の広大な一帯を支配下に置くことになる。北部のラッカから各地の拠点を結んで、シリア最大の都市アレッポに至るまでのルートを確保できる。
それ以上に重要なのは、国境地帯を支配すれば外国人の戦闘員を集めやすくなる上に、石油などの物資を国際的な闇市場に流しやすくなることだ。コバニの掌握で、ISISには今まで以上に多くの武器と人員と資金が流入する。
コバニを放っておいた結果、アメリカはISISを「弱体化させ、壊滅する」どころか、強化させ、拡大させることになる。今では米政府高官もそれを理解しており、米軍は遅まきながらコバニに進撃するISISを標的に空爆を行った。オバマはクルド人部隊支援のため、空爆の回数をさらに増やすよう指示している。それでも遅きに失した感は否めない。
コバニが陥落すれば、アメリカはクルド人部隊の期待を裏切っただけでは済まない。この戦いは当初の目標から外れているという口実は通用しない。
人道的な理由からISISに対する空爆を決断したなら、コバニ防衛はまさにオバマが選んだ戦いだ。その戦いで、ISISは恐るべき大義の実現に向けて決定的な勝利を挙げようとしている。
[2014年10月21日号掲載]