最新記事

人権問題

同性婚論争は新たな公民権運動

今ではアメリカ人の57%は家族か友人に同性愛者がいて、その結婚の是非も身近な問題になった

2013年4月12日(金)12時15分
小暮聡子(ニューヨーク)

法の下の平等を 米最高裁の前に陣取る同性婚賛成派 Joshua Roberts-Reuters

 同性愛者同士の結婚を認めるべきか。アメリカでは今、同性婚の是非をめぐる国民的な議論がヤマ場を迎えている。

 きっかけは先週、最高裁が「結婚は男女間に限る」と定義した2つの法の合憲性について審理を開始したこと。2つの法とは、96年に制定された連邦法「結婚防衛法」と、08年にカリフォルニア州で成立した州憲法同性婚禁止条項だ。9人の最高裁判事が結婚の定義について保守対リベラルで激論を交わす様子が録音の形で公開され、その「結婚観」に全米が注目した。
 
 アメリカでは現在、首都ワシントンと9つの州が同性婚を認めている。だが連邦法である結婚防衛法は、これらの州の同性婚者にも社会保障や配偶者税控除などで異性婚者と同じ権利を認めていない。10年に同性婚の家庭は全米で約65万世帯に上ったが、彼らにとって結婚とそれに付随する権利は異性愛者だけに認められた「特権」そのもの。最高裁審理は、公民権運動のように「法の下の平等」を勝ち取る戦いにほかならない。

 一方で宗教右派など反対者にとって、結婚は大昔から生殖を前提とした男女間でのみ成り立つものであり、法が定義し直せるものではない。そもそも性革命以前のアメリカでは、厳格な性道徳と伝統的な家族の形を重視する宗教観が根強かった。保守派にとって同性婚は「家族崩壊」を加速する脅威に映る。

 それでも、多くのアメリカ人にとって同性婚の是非は今や宗教や政治以前に、家族や友人の身近な問題になっている。CNNの調査によれば、「家族や親しい友人に同性愛者がいる人」は57%に上る。

 最近は共和党保守派のロブ・ポートマン上院議員が、息子から同性愛を告白されたことを理由に長年の同性婚反対を覆して支持を表明。同性婚反対派が96年の68%から昨年は46%にまで激減し、支持は53%に上ったのも、アメリカ人にとって今やゲイやレズビアンはごく身近な存在だからだろう。

 最高裁はこうした社会の動きを反映して、同性婚を認めるのか。先週は過半数の判事が同性婚禁止を疑問視する見方を示した。ただ世論を二分する問題だけに、6月の判決では司法判断を回避する可能性もある。

 いずれにせよ、全米が同性婚論争の行方を見守るのは、この問題が「21世紀の公民権運動」と位置付けられているからだ。

[2013年4月 9日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中