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米大統領選共和党の副大統領候補ライアンの嘘八百
共和党のロムニー&ライアン候補は聖書をすべての基本とし、真実を否定するが、有権者に理性の声は届かない
ロムニーとお似合い 42歳の若さで副大統領候補になったライアンは保守派の論客だが Eric Thayer-Reuters
11月の米大統領選に向けた共和党全国大会で8月29日、副大統領候補に指名されたポール・ライアン下院予算委員長。思慮深い人なら彼の指名受諾演説を聞いて、こんな感覚に陥ったのではないか――自分はビンの中に閉じ込められていて、人々に警告しようと大声で叫んでも誰にも聞こえない。
ライアンのつく大ウソは、国民の共感を呼んでいる。人々がきちんと真実を聞き入れられれば、ライアンとミット・ロムニー大統領候補の共和党ペアを選んだりはしない、と私たちは言い続けてきた。でも実際は、そう単純にはいかない。
ライアンは、ゼネラル・モーターズ(GM)の経営破綻をオバマ大統領のせいにするが、実際はブッシュ前政権時代に既にほとんどの工場が閉鎖され、大量の失業者が出ていた。また、メディケア(高齢者医療保険)の予算カットを批判しているが、これもライアン自身が下院予算委員長としてまとめた予算だ。こうしたあらゆる問題をめぐる彼の歪曲ぶりは誰が見ても明らかで、めちゃくちゃだ。
しかし私たちはもう気付いているはずだ。人間というものは、自分が持っている世界観の中でしか事実を認識できないのだ、と。
「真実」は無視し、相手を攻撃し続ける戦略
だから、ライアンとロムニーの作り話を信じている有権者の多くに、「その話は間違っている」と説得できる可能性は非常に低い。有権者はオバマ支持とロムニー支持に二分されており、誰に投票するか決めていない浮動層はほとんどないと言っていいくらいだ。
今回の大統領選は論理ではなく、感情で勝者が決まるだろう。選挙の行方は投票率しだいだ。だからライアンとロムニーは、毛ほどの迷いもみせず、声を張り上げ、徹底的に相手を攻撃する戦略を取っている。本人たちも認めているように、「真実」は彼らの選挙戦を勝利に導く力にはならない。
ライアンは、アメリカ国債の格付けが下がりそうだと嘆く。ただしそれは彼ら共和党が、連邦政府の債務上限の引き上げに反対を続けているせいだ。保守派市民運動ティーパーティーの高齢者たちが、オバマケア(公的医療保険)には不当な政府介入として猛反対しながら、高齢者向けの公的医療制度については「私のメディケアに手を出すな!」と金切り声をあげるのと同じだ。しかしこの偽善ぶりはこの先変わらないだろう。私たちも、変わると期待するのはやめるべきだ。
私たちはどちらを選択するのか。聖書をすべての基本とし、科学や理性、論理、真実を否定する共和党のロムニー&ライアン候補か。実りのない交渉に力を入れ過ぎるきらいはあるが、少なくとも今は真っ当に戦っているオバマ大統領か。
変えられないものを変えようとする、その努力を私たちはやめられないだろう。とにかく自分と同じ考えの人々に、選挙のことを真剣に考え、投票に行ってもらう――そう働きかけるしかない。
© 2012, Slate