最新記事

アメリカ社会

ミシェル・オバマに人種差別の厚い壁

「暴露本」の出版でまたも「怒れる黒人女性」のレッテルを貼られたファーストレディー

2012年3月1日(木)13時17分
アリソン・サミュエルズ(ロサンゼルス)

根強い偏見 たとえ大統領夫人でもアメリカの黒人女性の現実は厳しい Joshua Roberts-Reuters

 4年前にミシェル・オバマが初の黒人ファーストレディーになることが決まったとき、多くのアフリカ系アメリカ人は変化を期待した。

 長身でハーバード大学法科大学院卒、良き妻にして2人の娘の母──。ミシェルには無視できない品格と魅力と知性がある。彼女が黒人社会の例外ではなく手本であることに、世間はいずれ気付く。あらゆる人種の女性が雑誌の表紙を飾り、映画からは黒人女性のステレオタイプが消える。「怒れる黒人女性」というレッテルとも永遠にさよならだ──と。

 残念ながら期待は裏切られた。ジャーナリストのジョディ・カンターは最近出版した「暴露本」で、ミシェルと大統領側近の衝突の多さを指摘。結果的に、黒人女性に対する偏見の根強さを浮き彫りにした。

「バーバラ・ブッシュ以上に怒りっぽい人がいただろうか? ローラ・ブッシュも思ったことを口にしていたのに、ミシェルだけ非難される」と、黒人女性向け雑誌「エッセンス」の元編集顧問ミッキ・テイラーは嘆く。

 メディアのミシェルたたきは今に始まったことではない。08年の大統領選でオバマが有力候補に浮上すると、ミシェルは服装や髪形、スピーチでの言葉遣い、眉の形まで批判された。08年7月のニューヨーカー誌の表紙では、眉をつり上げ、アフロヘアでマシンガンを背負った姿で描かれた。

「アメリカがミシェルをどう見ているかを思い知らされた」と、ジョージア州アトランタの女子大生は言う。「黒人女性は教育の有無に関係なく色眼鏡で見られる。既婚でも未婚でも関係ない。ミシェルがそれを変えると信じていたけれど、何も変わらなかった。ミシェルが何をしても何も変わらない」

大統領選の影もちらつく

 ミシェルはドレスや花柄の服も身に着け、選挙演説のトーンやテーマも変えた。夫の大統領就任後は軍人の家族の支援や子供の肥満防止など、無難な問題に専念している。ホワイトハウス筋によれば、「ミシェルは第二のヒラリー・クリントンになるつもりはなく、ヒラリーのように大統領の職務に首を突っ込んで反発を買う気もない」

 大統領側近と衝突していると書かれたことについて、ミシェルは先週、CBSテレビのインタビューで次のように語った。「ホワイトハウスに内輪もめがあって私が『強い女』だというほうが話が面白いのでしょう。夫の出馬表明以来、メディアは私を怒れる黒人女性に仕立てたがる」

 カンターはミシェルが初の黒人ファーストレディーとして自意識過剰になっているとも指摘しているが、そうなったとしても無理はない。ミシェルは黒人女性がショービジネス以外で成功する道があると、多くの若い女性に希望を与えられる立場にいるのだから。

 ホワイトハウスの内紛にファーストレディーが輪を掛けるという構図は右派陣営には好都合だと、オバマの支持者は言う。「オバマに怒っている人が大勢いるから、オバマと関連するものはすべて巻き添えになる。ミシェルもそうだ」と、黒人女性向け情報サイトの編集者は言う。

 「誰からも好かれるなんて無理」とテイラーは言う。「自分の役目を果たし、自分が強く望むことをすべき。他人の目を気にし過ぎていたら、やるべきことがやれない。世の中そんなものじゃない。ミシェルは聡明な女性で、たくさんの可能性を秘めている」

[2012年1月25日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア新型ミサイル攻撃、「重大な激化」 世界は対応

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P1週間ぶり高値 エ

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10

ワールド

再送-ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 買春疑惑で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中