最新記事

住宅市場

差し押さえ不正という新しい危機

まだ300万件もの差し押さえが予想される米住宅市場。不正を正そうとすればかえって回復が遅れる?

2010年10月26日(火)18時19分
ジョエル・ショクトマン

すきま風 デトロイトのよく手入れされた住宅地にも空き家が(中央の家、09年10月) Rebecca Cook-Reuters

 アメリカの景気後退は3年目に入ろうというのに、住宅の差し押さえという病はまだ広がり続けている。自宅から追い出される人が今も絶えないことは誰でも知っている。過大な住宅ローンをとうとう払いきれなくなったり、失業してしまった人々だ。

 不気味なのは、差し押さえの次の大波がアメリカの郊外に迫っていること。不動産仲介会社のリアルティトラックによると、今後3年間でさらに300万件の住宅が差し押さえられるという。これは、金融危機後の景気最悪期を含む08年~今日までの全差し押さえ件数と並ぶ水準だ。9月だけでも10万件以上の差し押さえがあり、リアルティトラックが統計を取り始めた05年以降のワースト記録を更新した。

 政治家や消費者保護団体、州司法当局者らの間でも、銀行に差し押さえの一時凍結(モラトリアム)を求める声が強まっている。住宅市場のこれ以上の荒廃を防ぎ、借り手にローン返済条件を見直してもらうチャンスを与え、住宅が詐欺的手法で差し押さえられるのを止めるためだ。

「モラトリアムを与えれば、人々は家を失わずにすみ、銀行にとっても借り手と条件交渉をする動機づけになる。それは住宅市場の再生にもつながるはずだ」と、フロリダ州選出のアラン・グレイソン下院議員(民主党)は本誌に語った。

人間サインマシンまで雇った銀行

 そこへ、銀行の差し押さえ手続きに不正があったことが発覚。モラトリアムを求める声はますます強くなった。銀行は専門的な知識をもたない従業員を雇い入れ、差し押さえ手続きに必要な書類にサインさせ、裁判所に提出していた。銀行はこうした「サインマシン」を、速く書類にサインして差し押さえのスピードを上げるために雇ったのだ。なかには美容院から引き抜かれた美容師や、ウォルマートの店員もいた。

 全米50州の司法長官は今、差し押さえ手続きに不正があったか調査中だ。調査が終了するまで差し押さえを凍結するよう求める司法長官もいるが、銀行に強制はできない。差し押さえを一時凍結していた大手金融機関バンク・オブ・アメリカやGMACも、内部調査の結果問題はなかったとして差し押さえを再開した。

 貸付責任センターや米地域再投資連合(NCRC)などの消費者団体は、差し押さえプロセスは不正だらけで、たとえ何カ月かかろうと、政府の調査が終わる前にはもう誰からも家を奪うべきではないと主張する。

 これらの団体によれば、きちんと返済を続けているのに家を差し押さえられたケースはさすがにあまりないが、返済条件の見直しなど法で義務付けられている「やり直しのチャンス」を与えれなかったケースは多々あるという。「差し押さえの中には避けられたものも含まれていたのは間違いない」と、貸付センターのキャスリーン・デイは言う。「問題は、公正な書類がなければ判断がつかないことだ」

 銀行はもちろん、差し押さえの一時凍結に反対している。家を失ったのは、少なくとも1年以上ローンを滞納していた人たちだという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中