差し押さえ不正という新しい危機
まだ300万件もの差し押さえが予想される米住宅市場。不正を正そうとすればかえって回復が遅れる?
すきま風 デトロイトのよく手入れされた住宅地にも空き家が(中央の家、09年10月) Rebecca Cook-Reuters
アメリカの景気後退は3年目に入ろうというのに、住宅の差し押さえという病はまだ広がり続けている。自宅から追い出される人が今も絶えないことは誰でも知っている。過大な住宅ローンをとうとう払いきれなくなったり、失業してしまった人々だ。
不気味なのは、差し押さえの次の大波がアメリカの郊外に迫っていること。不動産仲介会社のリアルティトラックによると、今後3年間でさらに300万件の住宅が差し押さえられるという。これは、金融危機後の景気最悪期を含む08年~今日までの全差し押さえ件数と並ぶ水準だ。9月だけでも10万件以上の差し押さえがあり、リアルティトラックが統計を取り始めた05年以降のワースト記録を更新した。
政治家や消費者保護団体、州司法当局者らの間でも、銀行に差し押さえの一時凍結(モラトリアム)を求める声が強まっている。住宅市場のこれ以上の荒廃を防ぎ、借り手にローン返済条件を見直してもらうチャンスを与え、住宅が詐欺的手法で差し押さえられるのを止めるためだ。
「モラトリアムを与えれば、人々は家を失わずにすみ、銀行にとっても借り手と条件交渉をする動機づけになる。それは住宅市場の再生にもつながるはずだ」と、フロリダ州選出のアラン・グレイソン下院議員(民主党)は本誌に語った。
人間サインマシンまで雇った銀行
そこへ、銀行の差し押さえ手続きに不正があったことが発覚。モラトリアムを求める声はますます強くなった。銀行は専門的な知識をもたない従業員を雇い入れ、差し押さえ手続きに必要な書類にサインさせ、裁判所に提出していた。銀行はこうした「サインマシン」を、速く書類にサインして差し押さえのスピードを上げるために雇ったのだ。なかには美容院から引き抜かれた美容師や、ウォルマートの店員もいた。
全米50州の司法長官は今、差し押さえ手続きに不正があったか調査中だ。調査が終了するまで差し押さえを凍結するよう求める司法長官もいるが、銀行に強制はできない。差し押さえを一時凍結していた大手金融機関バンク・オブ・アメリカやGMACも、内部調査の結果問題はなかったとして差し押さえを再開した。
貸付責任センターや米地域再投資連合(NCRC)などの消費者団体は、差し押さえプロセスは不正だらけで、たとえ何カ月かかろうと、政府の調査が終わる前にはもう誰からも家を奪うべきではないと主張する。
これらの団体によれば、きちんと返済を続けているのに家を差し押さえられたケースはさすがにあまりないが、返済条件の見直しなど法で義務付けられている「やり直しのチャンス」を与えれなかったケースは多々あるという。「差し押さえの中には避けられたものも含まれていたのは間違いない」と、貸付センターのキャスリーン・デイは言う。「問題は、公正な書類がなければ判断がつかないことだ」
銀行はもちろん、差し押さえの一時凍結に反対している。家を失ったのは、少なくとも1年以上ローンを滞納していた人たちだという。