アメリカ高学歴エリートたたきの危うさ
中間選挙を前に、能力主義で逆境を克服し成功したオバマのようなエリートへの反発が噴出、政敵の格好の攻撃材料になっている
ムカつく オバマを見ると、特権階級に対するよりひどい劣等感を感じる人が増えている Jim Young-Reuters
1958年、イギリスの社会学者で労働党の政治家マイケル・ヤングは、イギリスの支配階級が自らを解体し、あらゆる世襲権力を廃止し、その代わりに知能指数(IQ)に基づく「メリトクラシー(能力主義社会)」を作り出す未来を描いた(風刺小説『メリトクラシーの法則』)。
物語の中で、学問的才能に恵まれた労働者階級の人々は喜んでエリート層の一員となる。しかし才能がない人々はエリート層に対して、かつての貴族階級に対してよりさらに激しい恨みを抱く。2034年にはこの恨みが、暴力的で大衆迎合的なポピュリスト革命を引き起こし、メリトクラシーは一掃される。
当時からずっと、ヤングの小説はアメリカに対する警鐘だと一部の人々は受け止めてきた。72年にアメリカの社会学者ダニエル・ベルはこの物語を引用し、驚くべき先見性をもって「反エリート教育のポピュリズム(大衆迎合主義)」の台頭を予見した。しかしベルは1つだけ間違っていた。大学に対する批判が起き、それが強制的な入学者数の割り当てと教育水準の低下につながっていくと、彼は考えたのだ。ところが実際には、アメリカの大学は高い教育水準を維持しながら女子学生やマイノリティー(人種的少数派)の入学も受け入れることで、70年代に起きたポピュリスト運動の波を食い止めた。
その結果が今、アメリカ社会の現実になっている。大統領はシングルマザーに育てられ、コロンビア大学とハーバード大学法科大学院を出たバラク・オバマ。黒人の地方公務員の娘で、プリンストン大学とハーバード大学法科大学院を出たミシェル・オバマが大統領夫人だ。そしてオバマは、親や先祖から受け継いだ財産などなく、名家の出身でもないが、ある程度の教育を受けたおかげで政府高官になった人物を何十人も登用した。
そうした人々がこれまでワシントンにいなかった訳ではない。家事使用人と農場労働者の間に生まれ、エール大学法科大学院を卒業した最高裁判事のクラレンス・トーマスがいい例だ。
嫌われ始めたアメリカンドリーム
かつてのWASP(アングロサクソン系でプロテスタントの白人)支配者層は、いまや脇に押しやられている(最高裁にWASPは1人もいない)。一方で、能力主義によって重用された人々が多くのアメリカ人から評価されていないことも明白だ。少なくとも、その上昇志向は歓迎されていない。
それどころか、彼らが「エリート主義者」として人々の恨みを買っているのは不思議な話だ。一生懸命に勉強し、成果を出し、自らを向上させていく――それはアメリカンドリームではないのか? アメリカのほとんどの「エリート」大学はそれ以外の大学以上に、入学者の幅を広げようと努力してきた。それを考えたら、エリート大学出身者への反発が起きているのはとりわけ奇妙に思える。
資金が豊富なアイビーリーグの大学の場合は特に、学費を全額給付する奨学金制度があるため、数十年前より人種や経済力の面で多様な学生が集まっている。かつては祖父が卒業生ならハーバード大学やエール大学に入学できた。最近では、祖父が卒業生なら有利なのは確かだが、それもSAT(大学進学適性試験)の成績が優秀で、アイスホッケーチームのキャプテンを務め、高校3年生の時に慈善事業のために100万ドル集めた場合だけだ(私がエール大学に入った頃は違ったが、最近は最後の項目も必須らしい)。以上3つをすべて満たし、なおかつネバダ州の崩壊家庭の出身ならもっと良い。