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米中間選挙貧困層の食糧配給券を狙う共和党
94年にも共和党を大勝させたギングリッチが候補者に与えた秘策は、福祉を減らして減税に回すと訴えること
死活問題 月300ドルのフードスタンプに日々の糧を頼る一家(カリフォルニア州) Lucy Nicholson-Reuters
米共和党のニュート・ギングリッチ元下院議長といえば、好き嫌いは分かれるかもしれないが、政治家として大きな業績を残してきた男であることは否定できないだろう。
クリントン政権下で行われた94年の中間選挙。ギングリッチは減税や福祉の削減などを盛り込んだ「アメリカとの契約」を公約に掲げて民主党から大量の議席をもぎとり、共和党を上下両院で多数派に導いた。だから、この11月に迫った中間選挙を前に、共和党の候補者たちがギングリッチに指揮官としての役割を期待しているのも無理はない。
では、ギングリッチが共和党員らに授ける秘策とは何なのか。それは、政府が低所得層に発行しているフードスタンプ(食料配給券)を批判しまくれ、ということ。
「予算調整」など理屈っぽい政治家の論争に国民がうんざりしていることを、ギングリッチはよく知っている。だから彼は今回、シンプルな選択を有権者に突きつけることにしたようだ。
現在、ギングリッチやその取り巻きたちは共和党候補者らに「ケリをつけよう」というメモを送りつけ、国民に分かりやすい言葉でこう問おうとしている。「あなたが欲しいのは、給料とフードスタンプ、どちらですか?」
フードスタンプなどの福祉費用を賄うために増税をすれば雇用も失われる。そうではなくて企業や中流層への減税で経済を活性化し、誰もが職にありつけるようにするのとどちらがいいか、というわけだ。
この作戦はある意味、過去の選挙戦術からは逸脱している。アメリカの選挙ではこれまで、食費補助政策などの貧困対策より、富裕層や彼ら向けの減税政策が重視されてきた。
とはいえ、ギングリッチが今回フードスタンプに目を付けたのには、もっともな理由がある。歴史的に見て、フードスタンプの配給は民主党政権下で膨れ上がり、共和党政権下では縮小してきた。つまりフードスタンプを狙い撃ちすれば、民主党が福祉国家好きの社会主義者で、共和党は愛国的な資本主義者だという構図を作ることができる。
ティーパーティーも歓迎
フードスタンプを攻撃するとはやや冷酷なようだが、この際それは置いておこう。それより経済が悪化した08年以降、フードスタンプに頼る人が急増しているのは当たり前で、民主党の責任ではない。現在、このプログラムで食べているアメリカ人は8人に1人、子供に限れば4人に1人の割合だ。
フードスタンプの受給者を減らすということ自体は、議会で議論してもいいぐらい崇高な目標だろう。だが中間選挙を控えた時期に、これを政治化すれば、この問題の深刻さと複雑さが矮小化されかねない。さらに、この制度に頼るしかない人が低所得者だということを考えると、「フードスタンプよりも給与を」という訴えは「貧しい人よりも裕福な人を」と言うのと同じようなものだ。
共和党は長年、「裕福な白人の党」というイメージから脱却しようと苦心してきた。そんななかでフードスタンプを中傷するというのは、共和党が捨てようとしてきた「共和党らしさ」を取り戻そうとする、おかしな戦略にも見える。
ギングリッチの訴えは、草の根保守連合のティーパーティーからも歓迎されているだろう。彼らには、デモ参加のためなら飛行機でワシントン入りする経済的余裕がある。しかし飛行機とは縁がなく、フードスタンプに頼るしかない人たちにとって、ギングリッチの戦略は死活問題だ。