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アメリカ社会

美しければ出世する(かも)

2010年9月9日(木)12時36分
ジェシカ・ベネット

 この調査によれば、企業の採用担当者が人材の評価基準として重要視する要素は、1位が経験、2位が自信、3位が容姿で、その次が学歴だった。
「これが労働市場の新しい現実だ」と、ニューヨークのある就職アドバイザーは言う(仕事に支障が出る恐れがあるとの理由で匿名を希望)。「非常に優秀だけれど容姿が冴えない人よりは、能力が平均レベルでも容姿のいい人のほうが有利だ」

「美し過ぎる」と痛い目に

 私たちがこうした「美の偏見」を抱くのは、今に始まったことではない。よく知られているのが、1960年アメリカ大統領選のエピソードだ。共和党のリチャード・ニクソンと民主党のジョン・F・ケネディが争ったこの選挙では、大統領候補者同士のテレビ討論が初めて行われた。

 討論をラジオで聴いた人は、ニクソンに好印象を抱いた。一方、テレビを通して、疲れた表情のニクソン(しかも、討論会は夕方だったのでうっすらひげが伸びていた)と、日焼けして彫りの深い若きケネディを見比べた人は、ケネディに好印象を持った。

 私たちが「美の偏見」を持つ理由については、さまざまな説明がなされている。古くは古代ギリシャの哲学者プラトンが「黄金比」について書いている。それによれば、顔の横幅が縦幅のちょうど3分の2で、鼻の長さが両目の間隔より短い顔に、私たちは美しさを感じるという。

 生物学的に言えば、人間は左右対称に近い顔と豊満な女性に魅力を感じるとされる。このような特徴を持つ人物は、健康な子供を生み出す可能性が高いと考えられているのだ。

 美しい人は自信が付いて、学校や職場でいい結果を残せるので、高く評価される──という見方もできる。しかし単に私たちは美しさに目をくらまされて、「美しい人=優秀」と思い込んでいるだけなのかもしれない。

 いずれにせよ今日の社会では、美容整形をテーマにしたテレビ番組などで、自分の容姿を「アップグレード」するのが当然だというメッセージが繰り返し流されている。雑誌の誌面では、(写真修整済みの)美しい人たちの姿を見せつけられる。その上、美しい人ほど社会で成功するという調査結果を読まされれば(この記事もそうだが)、誰だって不安になる。

 しかもテクノロジーの進歩によって、自分をアップグレードすることが昔より簡単になっている。美容整形といえば、かつては金持ちとセレブのためのものだったが、今は庶民も比較的安い費用で胸を大きくしたり、おなかの贅肉を取ったりできるようになった。さらにはお手軽な日帰り手術まで登場している。こうして、美しい容姿は神様の贈り物ではなく、不断に追い求めていくものだと考えられるようになった。

『美の偏見』という著書を最近発表したスタンフォード大学法科大学院のデボラ・ロード教授は、米国法曹協会で働く女性に関する委員会の座長を務めていたとき、ショックを受けたことがあった。社会で高い地位に就いている女性たちがしばしば、タクシー待ちの行列で時間を取られて約束に遅刻していることが分かったのだ。なぜ、そうまでして女性たちはタクシーに乗ろうとするのか。ハイヒールを履いて長い距離を歩くのが大変だからだ。

 女性にとって問題なのは、その時代の美の基準に従って行動していれば万事うまくいくとは限らないことだ。女性はどうしても板挟みの状態に陥る。社会で評価される美の基準に沿って行動すると、それはそれで批判を浴びる恐れがあるのだ。

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