最新記事

アメリカ社会

美しければ出世する(かも)

2010年9月9日(木)12時36分
ジェシカ・ベネット

 なるほど、元シティバンクのロレンザーナのような女性はセクシーさをアピールすることにより、仕事で得する面があるかもしれない。しかしその半面、「容姿が美し過ぎる」女性は仕事の場で痛い目に遭う可能性があると、企業の採用担当者の47%は考えている。

男性の白髪は「気品」に

 1968年、フェミニズム活動家たちはミス・アメリカ・コンテストの会場外で、ゴミ箱にブラジャーを投げ捨てた。当時、仕事の世界で女性は圧倒的に少数派。職場にせよ私生活の場にせよ、「胸の大きな秘書」という役割に押し込められるのはごめんだと、フェミニストたちは訴えた。

 10年後、たくさんの女性が働き始めたとき、彼女たちが身に着けていたのは女性的なファッションではなく男性的な肩パッド入りのスーツだった。
今の働く女性たちは平等を手にした(ということになっている)。アメリカの勤労者の半数以上は女性だし、女性が主な稼ぎ手の家庭も多い。肩パッド入りスーツの時代と異なり、会社でもビーチでも、女性らしさを押し殺すことを求められれば女性たちは抵抗するようになった。

 とはいえ、「女性的で、しかも力強い」女性が受け入れられるようになったのは仕事以外の世界だけ。職場は変わっていない。

 さまざまな調査によると容姿の劣る女性は、秘書など比較的地位の低い仕事には就きにくい。一方で、容姿のいい女性は出世した場合、「セクシーな女性=頭が悪い」という偏見にしばしばぶつかる。容姿の美しい女性は、女性的過ぎて、知性が乏しく、無能だと決め付けられがちだ。この種の偏見は、男性だけでなく女性の間にも根強くある。

 話を複雑にしているのが、年齢を重ねることが不利に作用する職場の現状だ。一般に、若い従業員のほうが新しいテクノロジーに通じていて、給料も安くて済み、見掛けもいいと見なされる。有能でも老けて見える求職者が応募してきた場合、採用をためらう企業もあると、本誌が調査した企業の採用担当管理職の84%が答えている。

 年齢差別は男女に共通する問題だが、とりわけ不利な立場に置かれるのは女性だ。スタンフォード大学法科大学院のロードが言うように、男性であれば白髪や額のしわのおかげで気品があると見なされるケースもあるかもしれない。しかし年齢のいった女性の場合は周囲から軽んじられたり、自分を若く見せようとしてあざ笑われたりしかねない。

「この二重基準のおかげで、女性たちは永遠に自分の外見を心配し続ける。その上、外見について心配していることを周りに気付かれてはいないかと、不安を感じる羽目になる」と、ロードは言う。

 人間は、古代から美の追求に執念を燃やしてきた。現代社会では、その執念が美とは対極にある醜い状況を生み出しているのだ。

[2010年8月 4日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

NZ金利はなお制約的、中立水準に向け低下へ=中銀高

ビジネス

マスク氏、大株主のノルウェー政府系ファンドCEOに

ビジネス

ムンバイでガソリン・ディーゼル車禁止案、州政府が検

ビジネス

ドイツ銀、中国の合弁事業巡る交渉決裂 出資比率で折
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? 専門家たちの見解
  • 3
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 4
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 5
    AI相場に突風、中国「ディープシーク」の実力は?...…
  • 6
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 7
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 8
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    天井にいた巨大グモを放っておいた結果...女性が遭遇…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    いま金の価格が上がり続ける不思議
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 6
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 7
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中