イギリスに学べ「超高速で新政権」
100年近く前、ウッドロー・ウィルソン大統領はイギリス流の政権移行に近い方法を考案した。再選をめざした1916年の大統領選でウィルソンは、共和党候補のチャールズ・エバンズ・ヒューズに敗れた場合はすぐに辞任すると決意。その場合、当時の制度では副大統領に次ぐ大統領継承順位にあった国務長官にヒューズを指名する心積もりだった。ヒューズの国務長官就任後にウィルソンとトーマス・マーシャル副大統領が辞任すれば、ヒューズは3月の正式就任を待たずして暫定大統領になれる。
実際には、ウィルソンは再選され、退陣計画が現実になることはなかった。だが、オバマとバイデンがウィルソンの計画を復活させれば、未来の大統領たちも前例にならって迅速に退陣しなければならないという道義的制約を感じるかもしれない。
この新方式の推進力になるのは、法律ではなく慣習だ。選挙で敗れた大統領と副大統領は辞任を選ぶようになる。選挙で敗れた議員らも同様に、法律で定められた期限より前に辞任する道を選ぶだろう。
事情はイギリスでも同じだ。政敵である保守党の連立政権樹立が明らかになった直後にブラウンが辞任を余儀なくされたのは、長年の慣習のためだった。
米大統領選を12月下旬に行う選択肢もあるが、一般投票日や選挙人投票日に事故が起きた場合に日程的な余裕がなくなるというリスクがある。
アメリカ人が心の底から迅速な政権移行を望むなら、憲法はその妨げにはならない。だとすると、問題は、イギリスの真似ができるかではなく、真似をしたいかどうかということだ。
*Slate特約
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[5月19日発売のニューズウィーク日本版はキャメロン新英首相の特集を掲載しています]