最新記事

米社会

「セックスするな教育」の成功に不満?

純潔を説く性教育によって10代の少女がセックスを遅らせる確率が高いことが判明。その調査結果に対するリベラル派の不毛な批判とは

2010年2月8日(月)18時25分
セーラ・クリフ

迷える性教育 望まない10代の妊娠を減らすには避妊も教えたほうがいいのか iStockphoto

 先週、「小児科学と青年医療研究」誌2月号に掲載された論文が、アメリカで論争を呼んでいる。内容は、10代の少女たちへの純潔教育が成果を上げたというケーススタディ。だが、リベラル派はネット上で、この調査結果を一斉に攻撃している。

「(避妊について教えない)『純潔のみ教育』がうまくいくかもしれないらしい」と、あるブロガーは皮肉っぽく書いている。「重要なのは『かもしれない』という点。他の戦略と合わせて行えばうまくいくこともあるし、失敗することもあるという意味だ」

 リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)の増進を掲げ、避妊教育を提唱するガットマーチャー研究所はこの論文を逐一精査し、「前政権のガイドラインに沿った『結婚まで純潔を守れ』教育に効果がなかったことを示す数々の重要な研究があるのに、それに反論していない」と結論づけた。リベラル派向けのニュースサイト、オルターネットの論調は、「純潔教育が成功したという調査結果をなぜ無視すべきか」という見出しをみるだけで想像できる。

 つまり、リベラル派に共通するのは、こんな反応だ──今回のケースでは「純潔のみ教育」が成果を上げたのかもしれないが、だからといってブッシュ政権時代の純潔教育が正当化されるわけではない──。

「心身の準備ができるまで」待て

 もっとも、論文の執筆者らは誰も、ブッシュ政権の純潔教育の正しさを証明しようとはしていないし、10代の妊娠をなくす万能薬を見つけたと主張しているわけでもない。しかも、ブッシュ政権時代の8年間で効果がないと証明された手法を再現したわけでもない。

 実際、この研究では、ブッシュ政権が資金援助の条件とした「結婚まで純潔を」というしばりを外して行われた。研究チームは米北東部在住のアフリカ系アメリカ人の中学生に、避妊について教えない「純潔教育のみ」プログラムを提供し、心身の準備ができるまで性行為をすべきでないと指導した。

 その後2年間をみると、プログラムを受講した生徒たちは、どのプログラムにも参加しなかった生徒や避妊による安全なセックスについての指導を受けた生徒より、性行為を遅らせる確率が高かった。

 ブッシュ政権がこうしたアプローチにも資金を提供すべきだったかという点については、研究チームはコメントしていない。ただし、主要研究者で著名な性教育研究者であるジョン・ジェモットは、この研究を政治的な処方箋とみなすことに警鐘を鳴らしている。「政策は一つの研究だけではなく、綿密に計画され実施された多くの研究の経験的発見の積み重ねに基づいて決定されるべきだ」

 それでも、この研究に反対する人々は、まったく関係ない論点をめぐって騒いでいる。10代の妊娠率がこの10年で初めて上昇している今、今回試された性教育の手法が、すでに機能していない前政権の指針に基づいて資金を受け取るべきだったかという議論をしても時間の無駄だ。

 むしろ、10代の妊娠を減らす新たな方法が見つかったことを喜ぶべきではないのか。この成功事例が再現可能かを検証する研究計画に、予算の一部を回すようオバマ政権に働きかけるべきではないのか。

二極化した性教育論争の愚かさ

 私が目にしたなかで最も賢明な反応は、包括的な性教育を支援する全米セクシュアリティー情報教育協会のモニカ・ロドリゲスのものだ。彼女はワシントン・ポスト紙に、「この研究の素晴らしい点の一つは、(性教育の)レパートリーに新たなツールが加わったことだ」と語った(オルターネットもその点は理解しているようだ。「この純潔教育プログラムはあの純潔教育プログラムではない」という新たな記事が掲載されている)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏

ワールド

訂正-米テキサス州のはしか感染20%増、さらに拡大

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見

ワールド

対ウクライナ支援倍増へ、ロシア追加制裁も 欧州同盟
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中