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米政治ペイリン、本誌米国版を性差別で批判
ペイリンのジョギング姿を載せたニューズウィークを性差別と批判する保守的な男性たち。彼らが「普通の人」ペイリンを擁護するのはエリートへの反動だ
リベラルな女性が性差別を批判するのは珍しくない。だが11月16日に発売されたニューズウィーク米国版最新号が、ジョギングウエア姿のサラ・ペイリン前アラスカ州知事を表紙にしたことについて、保守派の男性が女性差別だと批判していることにはちょっと驚いた。なぜ彼らは必死になってペイリンの肩を持つのか。
彼らにとって仕返しのチャンスだから、というのが私の解釈だ。これまで保守派の男性は女性差別主義者だとか人種差別主義者だというレッテルを貼られ、時代遅れの石頭とメディアの笑いものにされてきた。ペイリンを擁護するのは、自分たちをのけ者にしてきたエリート層に対する彼らなりの仕返しなのだ。
個人的には、ランナーズ・ワールド誌8月号に掲載されたペイリンのインタビュー記事はとてもいいと思ったし、ニューズウィークの表紙写真も品格があると考えている。スタイルの良さや、彼女の人柄をよく表している。何が起きても乗り越えていく力があること。そして、そのついでにちょっと儲ける才能があることも。
ペイリンはメディアの批判を金儲けのチャンスに変えた。彼女のように大衆の好奇心をかきたてる人物を無視することはできない。
キリスト教右派の有力指導者が相次いで第一線を退いた今、ペイリンは新しいキングメーカーだ。彼女自身が再び国政選挙に出馬することはなくても、候補者たちは右派に広がるポピュリズムの動きを味方につけるため、ペイリンの支持を得ようとするだろう。
東部エリートに対する反動の象徴
90年にクラレンス・トーマスが連邦最高裁判事に初めて指名されたときも、保守派男性は同じように熱心に支持した。トーマスはアフリカ系だが、保守派で有名大学出身でもない。それに東部のエリートと違って普通のアメリカ人の気持ちを分かっている。つまり自分たちと同じだというわけだ。
保守派男性はトーマス、そしてペイリンを支持することで、自分たちを人種差別主義者あるいは女性差別主義者扱いし、ワシントンやニューヨークで開かれるディナーパーティーにはふさわしくないとする「偏見」を覆せるはずだと考えている。
超田舎出身の彼らにとってペイリンは、自分たちの価値観を物笑いの種にし、アメリカの経済を破綻させた有名大学出身の東部エリート層に対する反動を象徴している。ペイリンは彼らの怒りを表現する手段なのだ。
故ロマン・フルスカ上院議員(共和党)は1970年、連邦最高裁判事に指名されたG・ハロルド・カースウェル連邦裁判事を支持して、「凡人擁護論」を展開した。
「(カースウェルは)凡人かもしれないが、凡人の判事や人間や弁護士はいくらでもいる。彼らにも少しくらい代表を送る権利はあるだろう? すべての判事が(20歳でハーバード大学法科大学院を首席で卒業したルイス・)ブランダイスや、(やはりハーバード卒のフェリクス・)フランクファーターや、(ベンジャミン・)カルドゾのような超エリートというわけにはいかない」(結局、カースウェルは承認されなかったが)。
これら「超エリート判事」を現代の適当な名前に置き換えれば、ペイリンが支持される理由がよく分かる。エリートが世の中を大混乱に陥れた時代には、社会ののけ者にされてきたと感じている層(その多くは保守的な白人労働者階級の男性だ)は、ペイリンのような「普通の人」を英雄視するものだ。
<追記>
ペイリンの回想録『ゴーイング・ローグ(ならず者として生きる)』の出版に合わせ、ニューズウィーク米国版はペイリンの特集を組んだ。表紙を飾ったのは、ペイリンがランナーズ・ワールド誌の取材に応じた際に撮影された写真だ。
ペイリンは16日夜、フェースブックでニューズウィークの表紙を非難。「この写真が選ばれたのは残念だ。サラ・ペイリンを取り上げるときには、この『ニュース』雑誌はどうでもいいことばかり話題にしてきた」と書いた。「本題とはずれたニューズウィークのアプローチは女性差別的だが、今となっては『やっぱり』という思いだ」
さらにペイリンは、ABCテレビのニューズ番組でバーバラ・ウォルターズに対し、ニューズウィークの表紙は「ちょっと屈辱的だ」とコメント。クリスチャン放送網(CBN)のデービッド・ブロディは、この表紙は「偏見と性差別を同時に示している」として、ニューズウィークはいっそう低俗化したと評した。
こうした批判に対してジョン・ミーチャム米国版編集長は11月17日、「私たちは手に入る写真のなかから、特集記事の趣旨を表す最も興味深い1枚を選んだ」と、コメントした。「男女問わず著名人の写真を使うとき、本誌はいつも同じ判断基準を採用している。その写真が私たちが伝えたいことを表現しているかどうか、だ。男性だろうが女性だろうが、その点は変わらない」